大倉孫兵衛

大倉孫兵衛：幕末から大正時代を駆け抜けた実業家の生涯

大倉孫兵衛（1843-1921）は、幕末から大正時代にかけて活躍した著名な実業家です。絵草紙屋から出発し、出版、洋紙販売、そして陶磁器産業と、多岐にわたる事業を展開しました。その生涯は、日本の近代化を象徴する波瀾万丈なものでした。

絵草紙屋から出版社へ：錦絵と出版

江戸・四谷で絵草紙屋の家に生まれた孫兵衛は、家業を手伝いながら、横浜で外国人に錦絵を販売するなど、若い頃から商業感覚を磨いていました。開港後の横浜で、貿易商の森村市左衛門と出会ったことが、彼の人生を大きく変えます。二人は意気投合し、後に義兄弟の契りを結びました。

市左衛門の勧めで、孫兵衛は独立し、自身も「萬屋」という屋号で絵草紙屋を開業します。当時流行していた開化絵や戦争絵などを出版し、高い評価を得ました。しかし、過度に血なまぐさい作品は避けていたと言われています。

その後、孫兵衛は錦絵の出版を通じて、自らニュース報道としての錦絵を刊行し始めます。明治7年（1874年）、錦栄堂を開店、翌年には「大倉書店」を創業しました。

大倉書店は、明治・大正期を代表する出版社として成長しました。葛飾北斎や歌川広重の画集を始め、国語辞典や辞書、そして夏目漱石の処女作『吾輩は猫である』なども出版し、日本の出版文化に貢献しました。しかし、関東大震災やその後の火災により、残念ながら廃業しています。

洋紙販売と製紙業への貢献

大倉書店経営のため、輸入洋紙の仕入れで横浜に通っていた孫兵衛は、洋紙販売の大きな潜在力に着目し、「大倉孫兵衛洋紙店」を創業しました。明治22年（1889年）に店名を改称し、洋紙販売事業に乗り出します。

ちょうどこの時代は、日本の製紙業界が急成長していた時期と重なります。孫兵衛は、森村市左衛門が株主だった富士製紙からの依頼を受け、洋紙販売の基盤を確立。現在も新生紙パルプ商事としてその歴史は続いています。

陶磁器産業への貢献と森村組

孫兵衛は、森村市左衛門が設立した貿易商社「森村組」にも参画し、市左衛門や飛鳥井孝太郎らと共に、明治37年（1904年）に日本陶器合名会社（現在のノリタケカンパニーリミテド）を設立。日本の陶磁器産業の発展にも貢献しました。大倉陶園もその流れを汲む企業です。

大倉孫兵衛が手がけた錦絵

孫兵衛は自らも出版事業に携わったため、多くの錦絵作品を世に送り出しました。その中には、月岡芳年、歌川広重、落合芳幾、豊原国周といった著名な浮世絵師の作品も多く含まれています。これらの作品は、当時の社会情勢や文化を反映した貴重な資料となっています。

まとめ：日本の近代化を支えた人物

大倉孫兵衛は、絵草紙屋という小さな事業から出発し、出版、洋紙販売、陶磁器産業と、様々な分野で成功を収めた稀有な実業家でした。彼の功績は、単なる経済活動にとどまらず、日本の近代化に大きく貢献したと言えるでしょう。彼の生涯は、時代の変遷と個人の努力が織りなすドラマとして、現代にまで語り継がれるべきものです。

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