三八年式実包

三八式実包：大日本帝国陸軍の主力小銃弾

三八式実包は、大日本帝国陸軍が1907年（明治40年）に制式採用した6.5mm小銃弾です。それまでの三十年式実包を改良し、日本初の尖頭銃弾（四〇式銃弾）を採用したことが大きな特徴です。この尖頭弾の採用により、弾丸の速度と弾道特性が向上し、より遠距離での射撃精度と威力が向上しました。

開発の背景

三八式実包の開発は、1906年（明治39年）から陸軍技術審査部で始まりました。この開発は、ドイツで1903年に採用されたS弾の影響を強く受けています。従来の円頭弾に比べ、尖頭弾は空気抵抗が少なく、より速い速度で飛翔し、弾道も安定するため、射程と命中精度を向上させることができます。三八式実包は、この尖頭弾の利点を最大限に活かすことを目指して開発されました。

実射試験と結果

開発段階では、生きた動物や人体を用いた射撃試験が実施されました。その結果、単純な軟部組織に対する損傷は三十年式実包と同程度でしたが、骨部に対する損傷は同等以上、内臓に対する損傷はやや軽度であることが確認されました。これらの試験結果は、三八式実包が実戦において十分な威力を発揮できることを示唆していました。

構造と特徴

三八式実包は、黄銅製の薬莢、無煙火薬、そして銅ニッケル合金の被甲を持つ鉛製の弾丸で構成されています。弾丸は、口径6.5mmに対し、最大径が6.65mmとわずかに大きく、これは銃身のライフリングに弾丸を噛み合わせて回転を与えるための設計です。全備重量は21gで、当時の小銃弾としては比較的軽量であり、そのため反動も比較的軽いものでした。

三八式実包が使用された銃

三八式実包は、三八式歩兵銃をはじめ、三八式騎銃、四四式騎銃、九七式狙撃銃など、多くの小銃や騎銃で使用されました。また、三八式機関銃、三年式機関銃、十一年式軽機関銃、九六式軽機関銃などの機関銃にも採用され、大日本帝国陸軍の主力小銃弾として、幅広く運用されました。

Ⓖ弾（減装弾）

九六式軽機関銃で使用する際に、作動不良が発生することがありました。この問題を解決するために、装薬量を減らした減装弾（Ⓖ弾）が開発されました。Ⓖ弾は、装薬量を2.0gに減らすことで、九六式軽機関銃での作動を安定させることができました。Ⓖ弾は、弾薬箱や紙函に「Ⓖ」のマークで識別されました。

三八式実包の種類

三八式実包には、用途に応じて様々な種類の弾薬が存在しました。

通常実包: 最も一般的な実包で、小銃や機関銃で使用されました。被甲の形状が改良され、命中精度が向上しました。
被鋼実包: 銃腔内の被甲を除去するための特殊な弾薬で、鋼製の被甲を持ちます。機関銃や小銃で連続発射することで、銃身内の清掃を行いました。
九二式徹甲実包: 装甲目標を貫通するための特殊な弾薬で、硬化鋼の弾身を持ちます。
狭窄射撃実包: 小銃射撃訓練用の弾薬で、低威力で安全に訓練を行うためのものでした。
空包: 射撃訓練や儀式で使用される弾薬で、弾丸が紙製や木製で、火薬のみが充填されています。
擬製弾: 実包の形状を模したもので、弾薬の装填・排出訓練に使用されました。薬莢と弾丸は一体化され、雷管も模擬的なものが使用されています。

価格について

昭和14年当時の価格は、実包10,000発あたり挿弾子と紙函付きで525円でした。現在の物価に換算すると、おおよその目安として1,500倍程度となります。

現代における三八式実包

第二次世界大戦後、多くの三八式歩兵銃が欧米に渡り、スポーツ射撃や狩猟に使用されています。それに伴い、三八式実包も現在も需要があり、スウェーデンのノルマ社、アメリカのホーナディ社などが製造・販売を行っています。また、ハンドロード用の薬莢や弾頭も入手可能であり、愛好家によって使用され続けています。

まとめ

三八式実包は、大日本帝国陸軍の主力小銃弾として、長年にわたり使用され、その高い性能と信頼性から、多くの戦場で活躍しました。その技術的な革新性や、後世に与えた影響は大きく、現在でも多くの銃器愛好家や歴史研究家によって研究され続けています。三八式実包は、単なる弾薬としてだけでなく、日本の近代兵器史を語る上で欠かせない存在と言えるでしょう。

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