三十三間堂官衙遺跡

宮城県亘理郡亘理町に位置する「三十三間堂官衙遺跡」は、平安時代に陸奥国亘理郡の役所（郡衙）が置かれていた場所として知られています。この遺跡は1992年（平成4年）に国の史跡に指定され、当時の地方支配の実態を示す貴重な手がかりを提供しています。

地理的背景と歴史的認知
遺跡のある亘理町は、宮城県の南部、阿武隈川が太平洋に注ぎ込む河口付近に広がっており、背後には阿武隈高地の北端が迫っています。市街地の多くは沖積平野上にありますが、三十三間堂官衙遺跡は、下郡椿山地区の小高い丘の上に位置しています。この場所には古くから礎石のような構造物が存在することが知られており、江戸時代の『風土記御用書出』（1779年）にもその記述が見られます。

また、地元には興味深い伝説が伝わっています。名工として知られる左甚五郎がこの地を訪れ、一夜のうちに建物を完成させようと工事に取りかかりましたが、一番鶏が鳴く前に天邪鬼が鶏の鳴き真似をしたため、作業が中断され、礎石だけが残されたというものです。

露出した10箇所以上の礎石群や、この地域の地名が「郡（こおり）」であること、遺跡の規模などから、当初から郡衙跡である可能性が強く推定されていました。また、奥州藤原氏の祖とされる藤原経清の居城があった場所との関連も有力視され、史跡指定の根拠の一つともなりました。

調査の経緯と郡衙の確定
三十三間堂官衙遺跡における学術的な調査は、戦前から開始されており、戦後も継続して行われました。1967年には伊藤玄三氏らによる調査、1986年から1988年にかけては宮城県教育委員会による調査、そして2002年以降は亘理町による調査が実施されています。これらの継続的な発掘調査と研究の成果により、以前は寺院跡であるとの見方もあったものの、最終的に9世紀前半から10世紀前半にかけて機能していた陸奥国亘理郡の郡衙施設であったことが明確に判明しました。

主要な遺構の構成
遺跡は、JR常磐線逢隈駅の西側に広がる丘陵上に位置しており、大きく二つのエリアに分けられます。一つは北側の「郡庁院跡」、もう一つは南側の「倉庫群跡」です。

郡庁院跡は、東西約50メートル、南北約65メートルの範囲を掘立柱塀で囲まれた区域です。この塀の東側と南側には、それぞれ外部への出入り口となる門の跡が見つかっています。特に南側の門跡からは、9世紀頃のものとされる土師器が出土しており、この区域が機能していた時期を示す手がかりとなっています。

郡庁院区域の中心部には、郡の役人が政務を執り行ったと考えられる「正殿跡」があります。正殿は南北約7メートル、東西約18メートルの規模を持ち、少なくとも二度の建て替えが行われた形跡が確認されています。正殿の南側には、東西約6メートル、南北約26メートルという細長い建物が二棟、正殿に対して東西に対称的な位置に配置されています。これらの長い建物もまた、一度建て替えられた様子がうかがえます。正殿とこれら二棟の長い建物が「コ」の字型に配置されている構造は、当時の郡衙においてよく見られる典型的な形式です。郡庁院内には、これらの主要な建物の他にも、五棟程度の建物跡が確認されています。

一方、遺跡の南側に広がる倉庫群跡は、一辺が約150メートルの大きな堀によって四方が囲まれた広大なエリアです。この区域内の西側と南側の辺に沿って、合計十棟の高床倉庫跡がL字型に整然と並んで見つかっています。郡衙の主要な役割の一つは、税として納められた穀物、特に稲を徴収し保管することでした。したがって、これらの高床倉庫は、郡の財産である米などを貯蔵するために使用されていたと考えられます。

遺跡の持つ意義
三十三間堂官衙遺跡は、発掘調査によって明らかになった郡庁院や倉庫群などの詳細な遺構を通じて、平安時代前期から中期にかけての日本の地方行政組織がどのような構造を持ち、どのような機能を発揮していたのかを具体的に知る上で極めて重要な遺跡です。特に陸奥国という辺境地域における郡衙の実態を解明する上で、その研究価値は高いと言えます。

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