三巻本 (枕草子)

三巻本について

三巻本（さんかんぼん）は、古典文学『枕草子』に属する日本の随筆作品の写本系統の一つであり、しばしば安貞二年奥書本（あんていにねんおくがきぼん）と呼ばれることもあります。この写本系統の特徴は、古い文体を保ちながら、類想や随想、回想といった多様な章段が混在している点にあります。また、三巻本だけに特有の章段「唯見江心」が存在し、琵琶弾きにまつわる内容が含まれているのも注目すべき点です。

概要

『枕草子』の写本系統は、主に四つの種類に分けられ、それぞれが異なる文体や章段の構成を持っています。三巻本は、雑纂本にカテゴリされ、随想や類想、回想を織り交ぜた形で編纂されています。この三巻本は、跋文の後に源経房と、清少納言の孫である橘則季の経歴が記されており、続いて1228年（安貞2年）の耄及愚翁（もうぎゅうぐおう）による奥書が添えられています。

藤原定家が『臨時祭試楽調楽』で賀茂祭の内容を引用した際、三巻本に近い特徴が見受けられることから、四つの系統の中で最も古い文体を保っていると考えられます。しかし、鎌倉時代以降、この三巻本の難解な表現の影響で、能因本の解釈が主流となりました。能因本は、後の時代に手が加わった部分が多いため、表現の明瞭さに欠けることがありました。

江戸時代においては、加藤磐斎や北村季吟、岡西惟中らが能因本を基にした注釈書を出版しましたが、明治時代に入ると、そのような状況が変わり始めました。1928年、池田亀鑑は「清少納言枕草子の異本に関する研究」を発表し、三巻本の優位性を唱えました。これ以降、三巻本を基にした本文解釈が盛んになり、1939年には山岸徳平が『校註枕草子』で初めて三巻本を底本に採用しました。

本文の特徴

三巻本の本文には、「まことにや、やがては下ると言ひたる人に」という一文の後に「一本 きよしと見ゆるものの次に」と続く章段が特徴的です。この「一本」は、「別の本には『きよしと見ゆるもの』以降に以下の章段が書かれていた」と解釈される部分で、明確に三巻本の特性を示しています。
また、三巻本には一類（甲類）と二類（乙類）の異なる系統が存在し、二類には異なる類想章段が含まれることが多いとされています。これにより、三巻本には清少納言の意図をより深く理解するための豊かな側面が見られます。

主な写本

三巻本の写本系統は、池田亀鑑によって一類（甲類）と二類（乙類）に分けられることが一般的です。また、一部の章段のみを収録した抜書本も存在します。この中で特筆すべきは、室町時代中期に書写された陽明文庫所蔵本があります。これは『枕草子』の底本として広く利用されており、早くからその価値が認められていました。

結論

三巻本は『枕草子』の中でも特に重要な写本系統とされ、文学研究においても中心的な役割を果たす存在です。古い文体を保持し、多様な章段を含むこの写本は、清少納言の作品が持つ魅力を伝える重要な手がかりとなっています。

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