三方楽所

三方楽所とは

三方楽所（さんぽうがくそ）は、江戸時代初期に制度化された雅楽の伝承組織です。宮中（京都）、南都（奈良興福寺）、天王寺（大阪四天王寺）の三つの楽所から成り立ち、それぞれ17人、計51人の楽人が所属していました。これらの楽所は、江戸時代以前から存在し、それぞれの雅楽家は「三方楽人（さんぼうがくにん）」と総称されました。

歴史的背景

古代律令制下では雅楽寮が雅楽を管轄していましたが、次第に各家が家業として世襲するようになり、実質的な雅楽の中心は蔵人所内の楽所へと移行しました。ほぼ同時期に南都や天王寺にも楽所が成立し、これらの楽所に所属する楽人も宮廷で雅楽を演奏するようになりました。

しかし、応仁の乱を契機とする動乱で、京都の楽人は四散し、宮廷雅楽は南都や天王寺の楽人によって細々と維持される状態となりました。安土桃山時代になると、正親町天皇や後陽成天皇によって南都や天王寺の楽人の一部が京都に移住を命じられ、次第に京都の楽人も帰還するようになりました。

江戸幕府成立後の慶長8年（1603年）には、三方合わせて24人の楽人の名前が記録されています。しかし、当時の三方楽人の経済力は非常に脆弱で、特に公家に隷属していた京都方は生活に困窮していました。寛文5年（1665年）、家康50回忌法要に際して三方楽人に2000石の領地が与えられ、経済状況は改善されました。

明治以降

明治維新後、三方楽所の楽人は東京へ移住し、江戸幕府の紅葉山楽人と統合され、宮内省雅楽部（現在の宮内庁式部職楽部）として再編されました。現在、宮内庁式部職楽部の雅楽は重要無形文化財に指定されています。

また、天王寺方の伝統を受け継ぐ聖霊会の舞楽は重要無形民俗文化財に、南都方は春日大社を中心に雅楽や田楽、細男などの古楽を伝承し、「南都楽所」として春日若宮おん祭の神事芸能も重要無形民俗文化財に指定されています。

楽家

奈良時代にはすでに家業を父子相伝する習慣があったと考えられています。12世紀頃には、家業以外の曲を演奏することが難しくなるほど、家業は独占的なものになりました。戦国時代の動乱を経て、三方楽所の楽家は、父子相伝による家業の曲以外にも、必要に応じて他家から一時的な伝授を受けるようになりました。

四辻家は楽所別当・楽奉行として、楽人の演奏権を管理しました。元禄期までは楽家以外の一般の弟子を取ることは禁じられていましたが、時代が進むにつれて、多くの楽家が門人を抱える家元制度へと移行しました。これは、楽家の収入が石高制で固定されており、飢饉や物価上昇に対応するための策と考えられます。

しかし、明治時代になると一般の弟子を取ることが禁止され、雅楽が宮内省で集中的に管理されるようになったため、家元制度は現代には続いていません。

三方及第

三方楽所の楽人は、上芸・中芸・次芸の三つの階級に分けられ、上芸・中芸の者には芸料が加給されました。この階級を決定するのが「三方及第」または「楽講」と呼ばれる実技試験制度です。

寛文5年（1665年）から慶応元年（1865年）まで、4年ごとに開催され、壱越調、平調、双調、黄鐘調、盤渉調（天保以降は太食調も）の順に、日を変えて実技試験が行われました。試験は笙、篳篥、龍笛の三管のみで、鞨鼓と太鼓が助奏として加わり、すべて左方楽（唐楽）の楽曲が用いられました。受験者は、上芸または中芸のどちらを受験するかを決め、楽講終了後の入札で過半数の票を得れば及第とされました。

この制度は、地域や家ごとの流儀を超えて技を競い合う場であり、雅楽の伝承と洗練に大きく貢献しました。明治期に宮内省雅楽部が組織された後も、試験方法は基本的に三方及第を踏襲していました。

近代以降の主な楽人

林廣守（1831年 - 1896年）
東儀季芳（1838年 - 1904年）
多忠朝（1883年 - 1956年）
東儀和太郎（1910年 - 1993年）
東儀秀樹（1959年 - ）
芝祐靖（1935年 - 2019年）

参考文献

西山松之助 『家元の研究』吉川弘文館〈西山松之助著作集〉第1巻、160 - 258頁、1982年。

外部リンク

天王寺楽所雅亮会
* 南都楽所

三方楽所は、日本の雅楽の歴史において重要な役割を果たしました。その制度と伝承は、現代の雅楽にも大きな影響を与えています。

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