三日平氏の乱 (平安時代)

三日平氏の乱：平氏残党の抵抗と源氏方の対応

平安時代末期、源平の争乱の一環として発生した「三日平氏の乱」は、1184年（元暦元年）7月から8月にかけて伊賀国と伊勢国で勃発した、平氏残党による大規模な反乱です。この事件は、前年の平氏都落ち後、伊賀・伊勢両国に潜伏していた平氏勢力による蜂起という形で起こりました。

『平家物語』では「三日平氏の乱」と簡潔に記されていますが、これは20年後の1204年（元久元年）に起きた、より短期間で鎮圧された事件を指します。1184年の反乱は、実際には長期間にわたる大規模なものでした。

反乱の勃発と拡大

1183年（寿永2年）7月の平氏西走後も、伊賀と伊勢には多くの平氏一族や家臣が潜伏していました。1184年3月、朝廷は伊賀国の守護に大内惟義を任命し、武蔵国の御家人大井実春を伊勢国に派遣して平氏残党の討伐を命じました。しかし、7月7日、平田家継を大将軍とする平氏残党が蜂起、大内惟義の郎従ら多数が殺害される事件が発生しました。同日、伊勢国でも平信兼らが鈴鹿山を封鎖して反乱を起こし、朝廷は大きな動揺に見舞われました。

7月19日、近江国大原荘で鎌倉軍（官軍）と平氏残党との間で戦闘が勃発します。この戦闘で平田家継が討ち取られ、富田家助、家能、家清入道らも討ち取られました。しかし、平信兼と伊藤忠清は逃亡に成功しました。この戦闘で源氏方も佐々木秀義などの老将が戦死するなど、数百騎に及ぶ大きな損害を受けました。

平信兼追討と義経の役割

反乱はほぼ鎮圧されましたが、平氏残党の残存勢力、特に平信兼の勢力は依然として脅威でした。そこで8月3日、源頼朝は義経に平信兼の追討を命じました。8月10日、義経は信兼の3人の子息を京の自邸に呼び出して殺害しました。これは、頼朝の意向によるものであったと推測されています。その後、義経は信兼追討に出撃し、『源平盛衰記』によると、伊勢国滝野の城に立て籠もった信兼軍を討ち取ったとされています。

義経は、8月6日、後白河法皇から左衛門少尉と検非違使に任じられました。この任官は、平氏残党による都への脅威への対応と、京都の治安維持を目的としたものでした。8月26日、義経は信兼の子息3人の殺害と、信兼の官職剥奪を頼朝に報告します。9月9日、頼朝は義経に京都における平氏家人の土地を支配させるという書状を送りました。

伊藤忠清は翌1185年まで潜伏を続け、都を脅かし続けました。源範頼は反乱の最中である8月8日に鎌倉を出立し、9月1日に京から西海へ向かいました。これは、平氏残党に対する都の不安の大きさを示しています。後白河法皇は、翌年正月の義経の屋島出撃を引き留めました。これは、義経が京都の治安維持に必要だったことを示唆しています。近年の研究では、義経が平氏追討から外されたのは、頼朝の怒りではなく、法皇や貴族の反対によるものだとされています。

反乱の背景と解釈

平信兼と平田家継は、源義仲打倒の立場から義経の入京に協力した京の武士たちでした。『吾妻鏡』では信兼の息子たちが反乱の首謀者であるとされていますが、彼らは義経の屋敷に出向いていたことから、反乱と深い関わりは持っていなかった可能性が高いと考えられます。信兼追討の背景には、独立性の強い京の武士を排除し、鎌倉幕府に従属させようとする頼朝の方針があったと推測されます。三日平氏の乱は、単なる平氏残党の反乱というだけでなく、鎌倉幕府による政治的支配確立のプロセスにおける重要な出来事であったと言えるでしょう。

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