大内惟義

大内惟義は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した武将であり、鎌倉幕府の御家人でした。清和源氏の一門である平賀義信の長男として生まれ、新羅三郎義光の曾孫にあたります。伊賀国に赴任してからは大内冠者と称しましたが、戦国大名として知られる周防国の大内氏とは直接的な血縁関係はありません。

生涯

治承・寿永の乱

惟義の史料における初見は、『延慶本平家物語』での義仲追討戦と、『吾妻鏡』での一ノ谷の戦いです。それ以前の動向は不明ですが、『玉葉』には、横田河原の戦いで平氏方の城助職が敗北した際、反乱軍が「キソ党」「サコ党」「甲斐国武田之党」の三軍で構成されていたと記録されています。「サコ党」は信濃国佐久郡を拠点とする平賀氏と考えられ、内乱初期には木曾義仲や甲斐源氏と連携していました。

寿永2年（1183年）、源頼朝は義仲を討つために信濃へ出兵し、佐久地方を制圧しました。この際、平賀氏は義仲から離反し、鎌倉方に加わったと考えられます。結果として、義仲の子・義高と頼朝の娘・大姫との縁組が成立し、頼朝の優位が確立しました。平賀氏が鎌倉政権下で武蔵守という要職に就いたのは、義仲からの離反に対する見返りだったと考えられます。

一ノ谷の戦いの後、惟義は伊賀国守護に任命されました。伊勢平氏の勢力基盤であった伊賀を抑える役割を担ったと推測されます。また、大内荘の地頭職も兼ねたとされ、この頃から大内冠者と呼ばれるようになりました。

同年、伊勢に潜伏していた志田義広が捕縛された際、惟義の家人が協力しました。その後、三日平氏の乱が勃発し、平信兼率いる平氏残党に襲撃され、多くの家来を失います。一時国外に逃亡しましたが、鎌倉からの討伐命令を受け、残党を鎮圧しました。しかし、乱の鎮圧に対する恩賞を求めたところ、「守護の務めである」として却下されました。

頼朝側近として

元暦2年（1185年）、頼朝は多田行綱から没収した摂津国多田荘とその在地武士の支配を惟義に命じました。また、同年8月には頼朝の推挙により、相模守に任じられました。これは、頼朝が国司に任命した6人の源氏一門の一人としての任命でした。同年9月には、頼朝の父・源義朝の遺骨葬送で、父義信、源頼隆と共に近侍を許されています。これは、平治の乱で義信が義朝と行動を共にし、頼隆の父・義隆が戦死したという縁によるものです。父義信は幕府の重要行事で常に筆頭に位置し、頼朝からの信頼が厚かったことがうかがえます。

文治5年（1189年）の奥州合戦にも従軍し、建久元年（1190年）と6年（1195年）の頼朝の上洛にも随行しました。

鎌倉・京への両属

正治元年（1199年）、頼朝の死後、三左衛門事件が起こると、惟義は首謀者の後藤基清らを拘束し、朝廷に引き渡しました。正治2年（1200年）には、鎌倉で椀飯の沙汰人を務める一方で、京都では梶原景時与党の追捕を命じられるなど、京都と鎌倉を頻繁に往来していました。その後、『吾妻鏡』にはしばらく記録が見られませんが、建暦2年（1212年）に在京奉公の功績で地頭職を拝領したとあります。この間、鎌倉と京の連絡役を務めていたと推測されます。

元久2年（1205年）の牧氏事件では、異母弟の平賀朝雅が北条時政によって擁立されたものの、北条義時に誅殺されました。惟義は事件に連座せず、朝雅が持っていた伊勢・伊賀守護を引き継ぎました。また、『吾妻鏡』には、駿河守に遷任していたことが記されています。建保元年（1213年）の源実朝の移徙では、北条義時の次位として随行し、建保2年（1214年）には義時の子・実義の元服で理髪役を務めました。

惟義は幕府から近畿6ヶ国の守護に任じられる一方で、在京御家人の代表として後鳥羽院に近侍し、朝廷との関係を深めました。この時期、北条氏が幕府内で権力を確立していく中で、惟義は「心情的には朝廷方に味方する意図があった」と見る向きもあります。

建保7年（1219年）1月27日、実朝が暗殺された際に惟義の名が見えますが、それ以降の消息は不明です。同年に死去したと考えられています。

承久の乱

承久3年（1221年）、承久の乱が勃発すると、惟義の死後、近畿6ヶ国守護職を引き継いだ子の惟信は、後鳥羽院の下に馳せ参じ、京方として幕府軍と戦いましたが敗北し、消息を絶ちました。これにより、源氏御門葉の平賀・大内氏は滅亡しました。

後鳥羽院が惟義を尊重したのは、討幕の日に備え、歴戦の武将である惟義を味方につけておきたいという思惑があったと考えられます。もし、承久の乱で惟信ではなく惟義が朝廷軍を率いていれば、戦況は大きく変わっていた可能性があります。

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