三河国分寺

三河国分寺は、愛知県豊川市八幡町本郷に位置する曹洞宗の寺院で、山号を国府荘山と称します。本尊は薬師如来で、奈良時代に聖武天皇の詔によって日本各地に建立された国分寺のうち、三河国（参河国）の国分僧寺の後継寺院にあたります。本稿では、現存する寺院と、国の史跡である古代の三河国分寺跡について解説します。

概要

三河国分寺は、豊川市街地から西に位置し、音羽川と白川に挟まれた洪積台地の南端部にあります。この寺院は、聖武天皇の詔によって創建された国分寺の法灯を継承しており、古代の国分寺は10世紀後半頃に廃絶したと考えられています。その後、16世紀に現在の国分寺が再興されました。再興後の境内は、当初は古代国分寺跡と重複していましたが、現在は東方に移されています。周辺には、三河国分尼寺跡、三河国府跡（白鳥遺跡）、そして東三河最大の古墳である船山1号墳があり、この地域が古くから政治的中心地であったことを示しています。

古代国分寺跡は、1922年（大正11年）に国の史跡に指定され、1985年度（昭和60年度）以降、数回にわたる発掘調査が行われています。現国分寺には、平安時代に作られたとされる銅鐘（国の重要文化財）や木造薬師如来坐像（愛知県指定有形文化財）が伝えられています。

歴史

古代

国分寺の創建時期は不明ですが、天平13年（741年）の国分寺建立の詔の頃に創建されたと考えられています。近年の発掘調査により、金堂よりも先に塔が建立されたこと、三河国分寺の建立が国分尼寺にやや先行していたことが明らかになりました。尼寺跡から出土した鬼瓦の様式から、両寺の建立が他国の国分寺に比べてやや遅れた可能性が示唆されています。また、現国分寺に伝わる銅鐘が平安時代初頭頃の作と推定されることから、この銅鐘が使用された国分寺または国分尼寺の鐘楼の建立自体が平安時代初頭まで下る可能性も指摘されています。

延長5年（927年）に成立した『延喜式』の主税上の規定では、三河国の国分寺料として稲2万束が割り当てられていました。しかし、その後の変遷については詳しくわかっていません。発掘調査によると、10世紀後半頃には建物の荒廃と廃絶が確認されています。

中世・近世

中世に入り、永正年間（1504-1521年）に機外和尚によって現在の国府荘山国分寺が再興されました。永禄3年（1560年）には、今川氏真によって八幡・国分寺が財賀寺領と定められ、両所は財賀寺（豊川市財賀町）の支配下に入りました。天正6年（1578年）の「八幡国分寺寺領目録」や天正17年（1589年）の「八幡国分寺領検地書出」には、「八幡国分寺」の記載があり、近隣の八幡宮と一体化していたことが示唆されています。

近世には、慶安2年（1649年）に朱印社領として5石7斗が定められました。

近代以降

近代以降の主な出来事は以下の通りです。

1922年（大正11年）7月15日：銅鐘が国の重要文化財に指定。
1922年（大正11年）10月12日：国分寺跡が国の史跡に指定（三河国分尼寺跡と同時）。
1985-1988年度（昭和60-63年度）：伽藍・寺域確認のための発掘調査（豊川市教育委員会）。
2007-2009年度（平成19-21年度）：発掘調査（豊川市教育委員会）。
2019年（平成31年）2月26日：史跡範囲の追加指定。
2019年度（令和元年度）：発掘調査（豊川市教育委員会）。

境内

三河国分寺跡

僧寺跡の寺域は、約180メートル四方で、築地塀によって区画されていました。主要な伽藍配置は、寺域東寄りの3分の1のラインに南大門、中門（推定）、金堂、講堂が南から一直線に配置され、西寄りには塔が配置されるという国分寺式伽藍配置（東大寺式伽藍配置の略型）でした。中門の両側からは回廊が出て、金堂の左右につながっていました。

金堂：本尊を祀る建物で、跡地にはかつて現国分寺の旧本堂が位置していましたが、現在は東方へ移転しています。
塔：経典（金光明最勝王経）を納めた塔で、他の堂宇に先駆けて建立されたとされています。基壇は約16.8メートル四方で、ヒノキ角材を用いた特殊な構造が採用されていました。基壇は現在も高さ約1.5メートルの高まりとして残っています。建物は3間四方で、五重塔であったと推測されています。現在は礎石2個が残存しており、発掘調査では青銅製の水煙破片が検出されています。
講堂：経典の講義や教説を行う建物で、基壇は東西約30.6メートル、南北約18メートルと推定されます。基壇外側には、雨水対策と思われる玉砂利の集積が見られますが、建物の規模や構造は明確にはわかっていません。講堂の裏手には僧房があったと推測されています。
回廊：金堂と中門を結ぶ屋根付きの廊下で、三河国分尼寺と同様に複廊式回廊であったと考えられています。基壇幅は約9.1メートル、柱間は桁行方向12尺、梁行方向10尺でした。
南大門：寺域南面の築地塀に開かれた正面の門です。基壇は東西約17.6メートルと推定されますが、南北は不明です。建物の規模や構造は不明です。
築地塀：寺域を区画する塀で、東面では基底部幅が3.0-3.2メートルを測ります。

創建期の瓦窯の所在地は不明ですが、瓦の様相は三河国分尼寺跡と同じであり、越中国分寺跡（富山県高岡市）のものと類似しています。9世紀から10世紀にかけての国府、国分寺、国分尼寺の修理や建替えに伴う瓦窯は、赤塚山古窯跡（豊川市市田町）であったことがわかっています。

また、寺域北方の国分寺北遺跡では、約100メートル四方の2区画が確認されており、これらは国分寺の付属院地と推定されています。同地では建物跡や区画溝のほか、「金寺」「僧寺」と墨書された土器が出土しています。寺域西に鎮座する八幡宮は、国分寺鎮護の神社であるという説があります。

文化財

重要文化財（国指定）

銅鐘（工芸品）：伝承では奈良時代の作とされますが、様式的には平安時代の作と推定され、古代の国分寺または国分尼寺の遺品とされています。無銘で、高さ118センチメートル、下帯回り256センチメートル、口径82.4センチメートル、重さ678キログラムです。竜頭の向きが撞座の向きと直交する古い形式です。乳は元々80個あったうち20数個が残っており、その欠失には弁慶の引きずり伝説が残っています。1922年（大正11年）7月15日に指定されました。
三河国分寺跡：1922年（大正11年）10月12日に指定され、2019年（平成31年）2月26日に史跡範囲が追加指定されました。

愛知県指定文化財

有形文化財
木造薬師如来坐像（彫刻）：平安時代の作で、元は八幡宮に祀られていた像でしたが、神仏分離に伴い国分寺に譲渡されました。1957年（昭和32年）1月12日に指定されました。

現地情報

所在地：愛知県豊川市八幡町本郷31
交通アクセス：名古屋鉄道（名鉄）名古屋本線・豊川線国府駅より徒歩約20分
関連施設：三河天平の里資料館（豊川市八幡町忍地） - 三河国分寺跡の出土品を保管・展示

周辺

八幡宮
三河国分尼寺跡 - 国の史跡
三河国府跡
三河総社
船山1号墳 - 豊川市指定史跡。東三河最大の古墳。

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