三重協奏曲 (ベートーヴェン)

ベートーヴェン：三重協奏曲 ハ長調 作品56

この協奏曲は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1803年から1804年にかけて作曲した、ピアノ、ヴァイオリン、チェロという3つの独奏楽器と管弦楽のための珍しい編成の作品です。一般には「三重協奏曲」と略称されます。

作曲の背景

この作品は、ベートーヴェンがヴァイオリンソナタ第9番『クロイツェル』、ピアノソナタ第21番『ワルトシュタイン』、ピアノソナタ第23番『熱情』、交響曲第3番『英雄』など、数々の傑作を生み出していた時期に作曲されました。当時、チェロを独奏楽器とする協奏曲は非常に少なく、ベートーヴェン自身もチェロを単独で用いた協奏曲は残していません。そのため、この三重協奏曲は、ベートーヴェンが手がけた唯一のチェロを含む協奏曲として、特筆すべき存在です。3つの独奏楽器を必要とするため、演奏機会は比較的少ないのが現状です。

このような特殊な編成の協奏曲を作曲した経緯は不明ですが、ピアノパートは演奏効果が高いにもかかわらず、技術的には比較的易しく書かれています。一方、チェロパートは重音奏法や急速な分散和音、音階など、高度な技巧が要求される難曲です。ピアノパートが易しい理由については、弟子のシンドラーが、ベートーヴェンのパトロンであったルドルフ大公の演奏を想定したためだと主張していますが、シンドラーの捏造癖から、この説の信憑性は低いとされています。

初演は1808年の復活祭以前にライプツィヒで行われ、同年5月にはウィーンでイグナーツ・シュパンツィヒのヴァイオリンなどによって初演されました。出版はそれに先立ち1807年に行われています。

この協奏曲では、独奏楽器群がピアノ三重奏のような役割を果たしており、通常の協奏曲にあるカデンツァは設けられていません。

楽器編成

独奏ピアノ
独奏ヴァイオリン
独奏チェロ
フルート
オーボエ2
クラリネット2
ファゴット2
ホルン2
トランペット2
ティンパニ
弦五部

楽曲構成

全3楽章構成で、第2楽章と第3楽章は切れ目なく続けて演奏されます。演奏時間は約35分です。

第1楽章 アレグロ
ハ長調、4分の4拍子。
協奏風ソナタ形式。
演奏時間：約17～18分
冒頭、チェロとコントラバスが弱音器を付けて演奏する重厚な旋律が第1主題。その後、ト長調で第1ヴァイオリンに現れるのが第2主題です。オーケストラによる提示部の後、独奏チェロが第1主題を演奏し、独奏ヴァイオリン、ピアノの順に変奏されます。第2主題も同様に、独奏チェロ、独奏ヴァイオリン、ピアノと受け継がれて華やかに展開されますが、イ長調で演奏されます。提示部の後、オーケストラによる展開部が始まり、主に第1主題が展開されます。再現部はオーケストラから始まり、提示部と同じように原調のハ長調で独奏が第1主題、第2主題と演奏し、コーダに入ります。最後はテンポを速め、全奏で力強く終わります。
第2楽章 ラルゴ
変イ長調、8分の3拍子。
演奏時間：約5～6分
わずか53小節の短い間奏曲のような楽章。独奏チェロが高音域で主題を奏で、木管、独奏ヴァイオリンが引き継ぎます。一通り演奏されると管弦楽は静まり、切れ目なく第3楽章へ移行します。
第3楽章 ロンド・アラ・ポラッカ
ハ長調、4分の3拍子。
ロンド形式（A-B-A-C-A-B-コーダ）。ロンド・ソナタ形式と捉えることも可能です。
演奏時間：約13～14分
ベートーヴェン作品としては珍しく、明確な速度指定がありません。第1楽章同様にコーダが第2の展開部のような役割を果たしており、演奏に約14分を要するため、終楽章としてはベートーヴェンの協奏曲の中で最も長いものです。独奏チェロが高音域で第1主題を提示し、独奏ヴァイオリンも同様に主題を奏でます。オーケストラのトゥッティを経て、独奏チェロが第2主題を提示します。ロンド主題が再現された後、中間部に入ります。ポーランドの民謡であるポロネーズのリズムに合わせて、独奏楽器が動き回ります。ロンド主題が再現され、第1主題から第2主題へと型通りに再現された後、コーダに入り、全奏で力強く全曲を締めくくります。

参考文献

作曲家別名曲解説ライブラリー ベートーヴェン（音楽之友社）

外部リンク

* 三重協奏曲作品56の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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