三閉伊一揆

三閉伊一揆とは

三閉伊一揆（さんへいいっき）は、江戸時代後期の弘化4年（1847年）と嘉永6年（1853年）に、南部藩（現在の岩手県）で発生した大規模な百姓一揆です。三閉伊とは、当時の藩が領内を33の「通」に分けて統治していたうち、九戸郡と閉伊郡一帯の野田通、宮古通、大槌通の3つの通を指し、これらの地域は三陸海岸沿岸部に位置していました。この地域は「三閉伊通」または「海辺道」と総称され、一揆の名称もこれに由来します。

背景

一揆の背景には、南部藩の財政難と民衆の困窮がありました。

1. 財政難: 寛政4年（1792年）のラクスマン来航事件を機に、幕府の命令で蝦夷地の警備を担うことになり、藩の財政負担が増大しました。文化2年（1805年）には、蝦夷地警護の功績として10万石の加増を受けましたが、これは実質的な収入増を伴わない名目上のもので、軍役の負担だけが増加し、藩財政はさらに悪化しました。
2. 凶作と重税: 南部藩は稲作の北限地域でありながら、水稲生産を強行したため、小氷期の影響も重なり、連年凶作に見舞われました。藩は目安箱を設置しましたが、記名式であったため民意を吸い上げる役割を果たさず、逆に証拠集めに悪用されました。
3. 悪政: 藩は負債を解消するため、新税や重税を課し、特に三閉伊地方では、水稲の基準で重税を課しました。また、漁業や製材業、製鉄業などの産業に御用金制度を設け、無理な課税を行いました。さらに、「軒別税」と呼ばれる人頭税を導入し、藩札「七福神」を大量発行したことでインフレーションが発生しました。幕府の手伝い普請による臨時課税も重なり、藩は武士の禄を長期にわたり借上し、民衆の不満は高まっていました。

盛岡南方一揆

これらの状況下で、天保7年（1836年）には盛岡南方一揆（盛岡強訴）が発生しました。度重なる凶作や御用金の賦課、藩札の乱発に対する不満から、各村々が御用金の免除などを求めて強訴を行いました。藩は一旦要求を受け入れましたが、一揆解散後に約束を反故にし、首謀者を処罰しました。翌天保8年（1837年）には、仙台に逃散する越訴が発生しました。藩は一揆衆を取り戻すために首謀者の処罰をしないと約束しましたが、帰還後約束を破って処刑したため、領民の藩への不信感は増大しました。

1847年 南部三閉伊一揆（遠野強訴）

弘化4年（1847年）10月、藩は再び六万両の御用金を賦課しました。特に三閉伊通りへの賦課額が他地域よりも多く、これが一揆の引き金となりました。

11月、浜岩泉村の牛方弥五兵衛を総指揮として一揆が発生しました。弥五兵衛は、海産物や塩を運びながら、全領一揆を説いて回った人物でした。総勢1万2千人余の一揆勢は、遠野に到着し、遠野南部家に御用金の撤廃など26ヶ条の要求を提出しました。遠野南部家は御用金の全免など12ヶ条を許可し、残りは後日調査すると回答しました。一揆勢は食料を支給されて帰村しましたが、弥五兵衛は、この成果が不十分であると考え、再び一揆の勧誘に回りました。一揆後、藩は家老横沢兵庫を罷免、藩主南部利済を隠居させました。しかし、弥五兵衛は捕縛され、嘉永2年（1849年）に斬殺されました。その後、利済の院政が開始され、反対派への弾圧が進められました。

1853年 南部三閉伊一揆（仙台強訴）

嘉永6年（1853年）、実権を握った利済は、遠野強訴での公約を破棄し、悪政を継続しました。3月には忠兵衛の指導で農民が野田代官所を襲撃しましたが、忠兵衛の急死により失敗しました。6月3日、多助を筆頭とする一揆勢が田野畑村から再び蜂起しました。一揆勢は「小○」と書いた旗を掲げ、資産家から軍資金や食料を徴収しながら南下し、6月5日には釜石に集結、その数は約1万6千人にも達しました。一揆勢は、篠倉峠を越えて仙台領の気仙郡唐丹村へ越訴し、仙台藩に政治的要求と具体的要求を提出しました。

要求内容

一揆の要求は、三閉伊通の百姓を仙台領民として受け入れること、三閉伊通を幕府直轄地または仙台領にすること、役人の削減、金上侍の復活、御用金などの臨時税の廃止、租税請負の廃止などでした。また、南部利義の復位も要求されました。

仙台藩は、1837年の越訴での違約を考慮し、南部藩の引き渡し要求を拒否しました。しかし、黒船来航により警備の必要が生じたため、45人の代表を残して帰国を促しましたが、一揆勢は帰国せず、仙台藩は彼らを保護しました。

南部藩は利義の復位を除く全ての要求を受け入れ、一揆指導者を処罰しませんでした。また、家老の南部土佐は蟄居、石原汀や田鎖は身帯家屋敷等取上げの上蟄居となり、利済派は一掃されました。翌年2月には、院政を敷いていた利済が幕府の命令で江戸に呼び出され、謹慎となりました。

その後、一揆指導者の三浦命助が逃走中に捕えられ、獄死しました。

一揆の特徴

三閉伊一揆は、南部藩の領民約35万人に対し、参加者が1万6千人程度と大規模な一揆でした。参加者は農民や漁民、その他様々な職業の人々で構成され、女性や幅広い年齢層の人々が参加していました。また、指導者の談合によって計画的に行動し、藩政を否定するだけでなく、前藩主の復位を要求するという政治性の高い一揆でした。越訴という方法を用いたことも特徴的です。代表者には、万が一の事態に備え、子孫の保育料を各村が支給する契約を結んでいました。

その他

盛岡強訴では、「小○」（困る）と書いた旗を掲げて行進しました。
田野畑村民俗資料館には、三閉伊一揆の資料や模型が展示されています。
三閉伊一揆を題材にした文学作品も複数存在します。

参考文献

『岩手県史 第5巻 近世篇 2』岩手県、1963年1月20日。
釜石古文書学習会『解読 三浦命助獄中記 一ばんてうめん』釜石市教育センター。
釜石古文書学習会『解読 三浦命助獄中記 二ばんてうめん・三ばんてうめん』釜石市教育センター。
瀧本壽史、名須川溢男『街道の日本史 5 三陸海岸と浜街道』吉川弘文館、2004年12月20日。

関連事項

過去の気温変化

外部リンク

三閉伊一揆（田野畑村）
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