普請

普請：地域を支える共同作業の歴史と文化

普請（ふしん）とは、地域住民が共同で、社会基盤の建設、修繕、維持管理を行う活動です。古くから日本社会に根付き、相互扶助の精神に基づいた地域活動から、公共事業としての側面まで、多様な形態で発展してきました。本稿では、普請の歴史、種類、役割、そして関連用語について解説します。

相互扶助としての普請：地域コミュニティの絆

貨幣経済が未発達だった時代、家屋の建築は近隣住民の協力によって行われるのが一般的でした。これが普請の原点です。特に人口の少ない地域では、家普請は地域住民の相互扶助の重要な一環であり、上棟式などには多くの人が集まって作業を手伝うのが慣習でした。この協力体制は「結（ゆい）」とも呼ばれ、普請帳に詳細な参加記録が残されている場合もあります。

現在でも、萱普請（屋根の葺き替え）、溝普請（用水路や排水路の清掃）といった伝統的な普請が各地に残っています。参加できない場合は金銭的な寄付をすることもあります。ごみ集積場の清掃作業の持ち回りなども、現代版の普請と言えるでしょう。

公共事業としての普請：自治と社会基盤の整備

江戸時代には町奉行の設立により、町単位での自治が認められました。これに伴い、社会基盤の整備は地域住民の責任で行われるようになり、町人や大店（おおだな）が資金を負担し、大工、鳶、木材商などが作業にあたりました。道、石垣、井戸、上水道、排水溝、橋梁建設、消火活動などがその例です。

村や町では、寺社が自治の中心的存在であり、寺社普請は重要な事業でした。幕府が行う寺社普請も多く存在しました。農村部では、灌漑用水路、溜池、林道、港湾、防波堤などの普請が自治や公共事業として行われてきました。

都市部では、幕府による海運荷役、埋め立て、治水、河川荷役のための護岸工事などが大規模な普請でした。桜の植樹や花火の打ち上げ、遊廓の設置なども、広義では普請と言えるでしょう。また、公営賭博や宝くじも、寺社普請を模倣した、国や地方自治体が独占した普請の手段と言えるかもしれません。

普請の歴史と起源

普請という言葉は仏教用語に由来し、禅宗が伝えた唐音です。類義語に勧進（かんじん）があります。当初は禅宗の信者が力を合わせて作業に従事することを意味していましたが、後に寺社普請や集落における共同作業を指すようになりました。

役職としての普請

室[[町幕府]]や江戸幕府では、築城などの役務・役職名として普請が使われました。これは自発的な社会参加とは異なるものでしたが、幕府による景気対策や生活困窮者の救済措置という側面もありました。棒手売（街商や物売りのこと）への鑑札発行も、同様の政策の一つでした。

具体的には、勘定奉行、用水奉行、作事奉行、普請奉行、小普請奉行などの役職があり、それぞれが異なる役割を担っていました。小普請は収入が少ない下級武士の救済策でもありました。

普請の種類と分類

普請には様々な種類があり、相互扶助に基づく「自普請」と、公共事業的な「御普請」に大別できます。自普請には家普請、屋根普請、田普請、溝普請、寺社普請、村普請、町普請などがあります。御普請には、災害復興のための町屋普請や大名手伝普請、雇用促進のための小普請や御救普請、大規模な社会基盤整備を行う天下普請などがあります。

また、道普請、用水普請、橋普請、川普請、堰普請、土手普請など、用途による分類や、公儀御普請、大名手伝普請、国役普請、領主普請など、行政規模や負担者による分類もあります。城普請、神殿普請なども重要な普請でした。

普請にまつわる言葉

普請に関連する言葉としては、安普請、普請道楽、普請帳、普請絵図、普請負けなどがあります。

現代における普請

現代においても、地域住民による道路清掃活動や、河川敷の整備など、普請の精神を受け継いだ活動が見られます。これらの活動は、地域コミュニティの活性化や、社会基盤の維持に貢献しています。

まとめ

普請は、単なる作業ではなく、地域住民の協働と相互扶助、そして社会基盤整備という重要な意味を持つ活動です。歴史的な背景や多様な形態を理解することで、現代社会における地域づくりやコミュニティ形成を考える上で、新たな視点が得られるでしょう。

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