三階教

三階教とは

三階教（さんがいぎょう）は、中国北斉の僧侶である信行（しんぎょう、540年 - 594年）によって開かれた仏教の一派です。その名前は、仏教の三時観である正法、像法、末法を、それぞれ第一階、第二階、第三階と独自の用語で表現したことに由来します。

三階教の教え

三階教は、私たちが生きる「いま」の時代を、末法、すなわち第三階の時代と捉えました。この時代においては、従来の仏教の教えでは人々を救うことができないと主張しました。そのため、大乗仏教の経典である『大方広十輪経』や『大集経』を基に、独自の教えを説いたのです。

普仏・普法・普敬

三階教の教えの中心は、普仏（あらゆる仏への帰依）、普法（あらゆる経典への帰依）、普敬（あらゆる僧侶への帰依）という三つの概念です。これは、末法の世に生きる人々が救われるためには、特定の仏や経典、僧侶に固執することなく、すべてを受け入れるべきだと説いています。また、その実践として、信者は乞食行を行い、生活を送りました。

浄土教との比較

三階教は、同じく末法思想の影響を受けて生まれた浄土教と比較されることがあります。浄土教は、阿弥陀仏への念仏によって極楽浄土に往生できると説きますが、三階教は、より包括的な救済を説き、仏教の持つ汎神論的な側面を強調しました。浄土教が特定の仏への信仰に傾斜したのに対し、三階教はすべての仏を等しく尊重する立場をとったのです。

三階教の寺院と活動

三階教は、他宗派の寺院とは別に、三階教徒のみが集まる「三階院」を設けました。さらに、独自の寺院も建立し、道俗の区別なく信者が集まり、布教活動や乞食行に励みました。彼らは戒律を守り、一日一食の生活を送り、出会う人々に対して分け隔てなく敬意を払いました。これは、すべてのものに仏性が宿るとする「悉有仏性」の思想を体現したものでした。

長安での活動

長安では、隋の時代に真寂寺、唐代には化度寺という寺院が三階教の中心となりました。化度寺には「無尽蔵院」という施設がありましたが、信者からの過度な支持が集まったため、政府によって破壊されました。

三階教の歴史と弾圧

三階教は、その歴史を通じて政府からの弾圧を受け続けました。開祖である信行の死後わずか6年で、邪教とみなされて弾圧されました。また、三階教が独自に編纂した経典は、仏教の正典である大蔵経には収録されず、その多くが失われてしまいました。しかし、20世紀になって敦煌で多くの写本が発見され、21世紀には陝西省の石窟で経文が発見され、その教義が再び明らかになりました。

現代への影響

三階教の汎神論的な信仰は、日本の浄土教系宗派である融通念仏宗との関連性が指摘されています。融通念仏宗の教えには、「一人は一切人、一切人は一人」という思想があり、これは三階教の教えに通じるものがあると考えられています。

まとめ

三階教は、末法思想を背景に、既存の仏教宗派とは異なる独自の教えを説いた仏教の一派です。政府による弾圧を受けながらも、その思想は現代まで影響を与え続けています。その普遍的な救済思想は、現代においても注目に値するものです。

参考文献

「三階教之研究」矢吹慶輝著 / 東京：岩波書店, 1927年6月
「三階教の研究」西本照真著 / 東京：春秋社, 1998年2月 ISBN 4393111966

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