上久堅村

上久堅村（かみひさかたむら）

長野県下伊那郡に位置していた上久堅村は、現在の飯田市大字上久堅の区域にあたる村でした。この村は、近世以来の久堅村が分割されて成立した歴史を持ち、特に大規模な治山事業が長期にわたり実施されたことで知られます。1964年（昭和39年）に飯田市に編入され、自治体としては消滅しました。

地理的特徴

上久堅村は、神之峰、卯月山、権現山といった山々に囲まれた地形に位置していました。かつては山林の荒廃が著しく、崩壊地や植生が失われた「はげ山」が広範囲にわたって見られた地域でもありました。

歴史の歩み

上久堅村の歴史は、1881年（明治14年）9月9日に、それまで一つの村であった久堅村が行政上の必要から上久堅村と下久堅村に分割されたことに始まります。その後、分割された村の一部においてさらなる再編成が行われ、1884年（明治17年）5月19日には、上久堅村から一部区域が分かれて独立し、虎岩村が成立しました（この虎岩村は後に下久堅村の一部となっています）。

近代地方自治制度が確立される過程で、1889年（明治22年）4月1日に町村制が施行されると、上久堅村はこの区域をもって単独の自治体を形成し、村としての歩みを本格化させます。以後、村政は継続されましたが、昭和に入り、市町村合併の流れの中でその転機を迎えます。1964年（昭和39年）3月31日、上久堅村は隣接する飯田市に編入合併されることとなり、同日をもって自治体としての上久堅村は廃止されました。現在の飯田市大字上久堅が、当時の村域におおよそ相当します。

特筆すべき歴史的事項として、戦前には国策としての満蒙開拓移民に関連し、1939年（昭和14年）に上久堅村の一部から満州の開拓地に分村が成立したという歴史も有しています。

経済と治山事業

上久堅村の経済は、村の大きな課題であった広範な荒廃地という地理的状況と密接に関わっていました。かつて、村一帯には多くの崩壊地や森林の失われた山肌が見られ、これは農業生産などにも影響を与える要因でした。この状況に対し、村の再生と国土の保全を目指す大規模な治山事業が長期間にわたり実施されました。

治山事業はまず1917年（大正6年）に長野県による取り組みとして始まりましたが、その規模の大きさから、1937年（昭和12年）からは国による直轄の治山事業へと発展しました。この国の直轄事業は、第二次世界大戦中も中断されることなく継続され、実に数十年にわたる息の長い取り組みとなりました。

この治山事業は、荒廃地の回復という本来の目的だけでなく、村の経済活動においても極めて重要な役割を果たしました。一時は、村全体の770戸のうち、なんと600人以上もの人々が治山事業に従事していたという記録が残っています。これは、村の人口の大部分が、山林の復旧に関わる仕事で生計を立てていたことを意味します。通常の農村では農業が経済の中心ですが、上久堅村では、国土を再生するための事業が村全体の経済を支えるという、ある種の「逆転現象」が見られるほど、治山事業が生活の基盤となっていた時期がありました。

昭和初期の時点で村内に存在した150ヘクタール以上もの荒廃地は、長年の治山事業、すなわち植林や治山施設の整備といった努力により、次第に復旧が進みました。荒廃地の多くは緑を取り戻し、豊かな森林へと姿を変えていきました。治山事業による効果が見られたことから、国の直轄事業は1956年（昭和31年）に終了しました。この長期間にわたる大規模な治山事業は、上久堅村の景観を回復させただけでなく、村の人々の生活や経済構造にも深い影響を与えた重要な出来事でした。

交通網

村域を通る主要な交通路としては、かつての国道152号線が挙げられます。この道路の一部区間は、現在では国道256号線に含まれています。

関連事項

• - 長野県の廃止市町村一覧
• - 満蒙開拓移民：1939年（昭和14年）、国策により満州へ移住した開拓団に関連し、現地に上久堅村の分村が設立された歴史があります。

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参考文献

• - 角川日本地名大辞典 20 長野県

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