上杉憲将

上杉憲将（うえすぎ のりまさ）は、南北朝時代に生きた武将です。関東管領を務めた上杉憲顕（うえすぎ のりあき）の嫡子にあたるとされています（「上杉系図大概」）。

憲将の活動は、興国3年／康永元年（1342年）の上杉清子死去に際し、記録に見え始めます。当時、越後国守護であった父の憲顕は、南朝方との戦闘のため越後を離れることが難しく、憲将は父に代わって弔使を務めました。

やがて足利将軍家内部で観応の擾乱と呼ばれる争いが起こると、憲将は足利尊氏の弟である直義（ただよし）を支持する立場をとります。正平5年／観応元年（1350年）、直義方が南朝と和睦したことを受け、憲将は越後へと入り、北朝方勢力と交戦しました（『越佐史料』）。翌正平6年／観応2年（1351年）1月には、直義方の敵であった高師冬（こうのもろふゆ）を討つべく甲斐国へ進軍し、見事に師冬を討ち取る戦功を挙げました。その後、上洛して直義本隊と合流しています（『新潟県史資料編』）。

尊氏と直義の間に一時的に講和が成立した後、憲将は鎌倉へ戻りました。この時、直義は父憲顕に対し、憲将に従った将兵への恩賞として関東における御料所の闕所地を充てるよう命じています（「上杉家文書」）。また、正平6年／観応2年（1351年）9月付の「上杉憲将遵行書」（「長楽寺文書」）からは、師冬の失脚後に関東の実力者となった父・憲顕の下で、武蔵国の守護、あるいは守護代として在職していた可能性が指摘されています。

しかし、尊氏と直義の講和は再び破綻します。同年12月には、関東を目指して進軍してきた尊氏軍との間で、駿河国由比（現在の静岡市清水区）において薩埵峠の戦い（薩捶山合戦）が勃発しました。憲将はこの戦いに直義方として参戦しましたが、敗北を喫してしまいます。

薩埵峠での敗戦後、憲将は越後や上野の守護職を罷免された父と共に、身を隠していたと考えられます。しかし、正平10年／文和4年（1355年）、越後佐味庄（現在の新潟県上越市）の顕法寺城にて、宇佐美氏一族と共に再び兵を挙げました。これに対し、尊氏方の村山隆直（むらやまたかなお）・風間長頼（かざまながより）らが侵攻。憲将らは顕法寺城を放棄し、続いて立て籠もった柿崎城も陥落しました（『新潟県史資料編』）。これにより、宇佐美氏や柿崎氏らを傘下に収め、父の守護時代から上杉家が勢力を広げていた越後国府周辺地域は、一時的に足利方についた新守護の宇都宮氏の支配下に入ることとなりました。

越後での再起が阻まれた憲将らは、直ちに信濃国へと戦いの場を移しました。ここでは小笠原長基（おがさわらながもと）と交戦しています（『越佐史料』）。正平11年／延文元年（1356年）にも、信濃国高井郡（現在の長野県上高井郡付近）での戦いが記録に残されています（「市河文書」）。

正平13年／延文3年（1358年）に足利尊氏が死去し、さらに正平16年／康安元年（1361年）に畠山国清（はたけやまくにきよ）が失脚すると、父の憲顕は越後守護、上野守護、そして関東管領へと復帰を果たしました。これによって上杉家の越後および関東における基盤が確立されることになります。憲将は、従弟にあたる犬懸上杉家の上杉朝房（うえすぎともふさ）に代わって、越後守護領の差配を任されていたのではないかと推測されています。しかし、父憲顕に先んじて、正平21年／貞治5年（1366年）に世を去りました。激動の南北朝時代を父と共に戦い抜いた生涯でした。

もう一度検索