上村孝二

上村 孝二

日本の著名な国語学者、方言学者である上村 孝二（かみむら たかじ）は、1908年（明治41年）3月14日に生を受け、1996年（平成8年）3月25日にその生涯を終えました。特に九州地方の方言研究において重鎮と仰がれ、文学博士の学位を持ち、鹿児島大学名誉教授として後進の指導にあたりました。

生涯の始まりと学び

上村孝二は、1908年に佐賀県武雄町で生まれました。しかし、彼の本籍地は鹿児島県上甑村（現在の薩摩川内市に属する甑島列島の一部）にありました。生後間もなく実母を亡くしたという境遇から、彼は上甑村中甑の上村家に養子として迎えられます。この地で中津尋常高等小学校を卒業した後、1925年（大正14年）には本土の鹿児島県立川内中学校（旧制）に進学し、学びを深めました。

旧制中学校を卒業した上村は郷里に戻り、上甑村の江石尋常高等小学校で一年間、代用教員として教壇に立ちました。教育の現場を経験した後、さらなる学究を志し、九州帝国大学法文学部国文学科に進学します。ここで国語学を専攻し、1933年3月に無事卒業を果たしました。

満州での経験と帰国

大学卒業後の1933年4月、上村孝二は当時の満州国に渡り、文教部学務司長室に勤務しました。翌1934年4月11日からは、満州国内の教育機関である奉天高等女学校の講師となり、同年9月5日には教諭へと昇任しました。後にこの学校は「奉天浪速高等女学校」と改称されます。満州での教育経験を経て、1941年3月31日、彼は奉天浪速高等女学校教諭の任を解かれ、鹿児島県師範学校教諭として日本に帰国しました。1943年に鹿児島県師範学校が官立学校に改組された後も、引き続き教諭として勤務を続けます。そして、1945年4月からは鹿児島師範学校の教授兼教諭という立場となりました。

鹿児島大学での貢献

第二次世界大戦後の学制改革に伴い、1949年7月31日、上村は新制大学として発足した鹿児島大学の助教授に任命されました。1951年4月1日には鹿児島大学文理学部の教授へと昇格し、教育研究の中心的な存在となっていきます。さらに1965年4月1日に行われた学部再編により、彼は法文学部教授として、主に国語学・方言学分野を担当しました。

長年の研究活動が実を結び、1972年には学位論文「九州西南部方言及び琉球地方方言の研究」を九州大学に提出し、文学博士号を取得しました。教育者としても多くの学生を指導し、1973年4月2日に鹿児島大学を定年退官する際には、その功績が称えられ名誉教授の称号を授与されました。

鹿児島大学退官後も、上村の研究・教育への情熱は衰えませんでした。彼は鹿児島短期大学の教授に就任し、後進の育成にあたります。また、1974年4月からの三年間にわたり、同短期大学の図書館長も兼任しました。1982年3月31日に鹿児島短期大学を辞職するまで、彼は地域の学術振興に尽力しました。

方言研究の重鎮として

上村孝二の学術的な業績は、特に九州・南島地方の方言研究において顕著です。鹿児島大学在任中には、精力的に九州各地のフィールドワークを行い、貴重な方言資料を採集しました。1949年（昭和24年）からは国立国語研究所の地方研究員としても活動を開始し、日本の言語地理学的調査に貢献しました。国立国語研究所が編纂した『日本言語地図』のうち、鹿児島地区に関する部分は、彼の綿密な調査と分析によってすべて手掛けられました。その卓越した研究成果と貢献に対し、文化庁から表彰状が贈られています。

また、彼の専門知識は社会的な貢献にも生かされました。1975年（昭和50年）4月に行われた鹿児島県議会議員選挙の際に、枕崎地方で投票用紙に「佐多（さた）」と書かれるべきところを「さだ」と記された票が有効票となるか否かが裁判で争われた事例がありました。このとき、福岡高等裁判所宮崎支部で方言学者として証言台に立った上村は、その地方の方言では語中における「た」音が一般的に濁音化する現象が見られることを学術的に説明し、裁判の解決に大きく貢献しました。

彼の研究成果は多くの著作にまとめられています。主著としては、長年の研究を集大成した『九州方言・南島方言の研究』（秋山書店、1998年）があり、その他にも多数の共著書を発表しています。

栄典と親族

上村孝二は、学術研究と教育における長年の功績に対し、1979年11月3日に勲三等旭日中綬章を受章しています。また、死去した1996年3月25日には、正四位が追贈されました。

上村家は学術的な家系であり、従兄である上村哲弥は家庭教育学の権威として日本女子大学名誉教授を務めました。また、彼の息子たちも学者として活躍しています。長男の上村和也は比較文学者として鹿児島大学名誉教授に、二男の上村直己はドイツ学者として熊本大学名誉教授にそれぞれ就任するなど、親子二代にわたって学術分野で大きな足跡を残しました。

上村孝二は、1996年3月25日に再生不良性貧血のため88歳で逝去しました。九州・南島方言研究の第一人者として、教育者として、また社会への貢献者として、彼の名は日本の国語学・方言学史に深く刻まれています。

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