上條嘉門次

上條嘉門次（かみじょう かもんじ）

上條嘉門次（1847年11月21日 - 1917年10月26日）は、幕末から明治、大正にかけて上高地を舞台に活躍した人物です。杣（そま）、山見廻り人夫、猟師として山で働きながら、卓越した山案内人としても知られています。彼の功績は、日本の登山史に深く刻まれています。

生涯

嘉門次は、信濃国安曇郡稲核村（現在の長野県松本市）に、有馬又八の次男として生まれました。12歳で上高地に入り、杣見習いとして働き始めます。16歳から18歳にかけては、松本藩の藩有林の見廻り人夫を務めました。23歳で一人前の杣職となり、島々村の上條家に婿入り、翌年には長男の嘉代吉をもうけています。

30歳を過ぎた頃、嘉門次は明神池畔に小屋を建て、猟師としての生活を始めました。夏はイワナ、冬はカモシカやクマなどを獲り、生活の糧としていました。また、外部から訪れる人々からの山案内を請われると、快く引き受けました。当時の上高地には公式な地図はなかったものの、嘉門次は自身の経験と鋭い勘を頼りに人々を安全に山へと導きました。滑落した人を背負って山を下りたという逸話も残っています。

嘉門次の名が広く知られるようになったのは、45歳から46歳の頃、ウォルター・ウェストン夫妻を北アルプスへ案内したことがきっかけです。ウェストンは嘉門次を「老練なる山岳人」と評しています。嘉門次の主な生活は猟師であり、山案内人としてガイドをしたのは生涯で20組にも満たなかったと言われています。明神池畔の小屋は、後に「嘉門次小屋」として知られるようになりました。

嘉門次は、小林喜作や内野常次郎といった他の山岳ガイドからも畏敬の念を集める存在でした。彼の口癖は「山はネコのように歩け、石一つ落とすな」だったと言われています。また、参謀本部陸地測量部に協力し、館潔彦らの測量にも参加、前穂高岳の初登頂に同行するなど、登山史にも名を連ねています。

嘉門次小屋

嘉門次が建てた小屋は、彼の死後「嘉門次小屋」として親しまれるようになりました。1925年（大正14年）には、息子の嘉代吉の夫人によって山小屋としての営業が開始され、1966年（昭和40年）には、4代目の輝夫の代から本格的な営業が始まりました。3代目の孫人は、山岳ガイドとして活動しました。

嘉門次小屋は、その歴史的価値から国の登録有形文化財に登録されています。小屋のそばには、嘉門次の功績を称える嘉門次碑が建てられています。

参考文献

上條久枝『ウォルター・ウェストンと上條嘉門次』 求龍堂, 2018年
平林国男「日本アルプスのぬし」-『北アルプス博物誌Ⅰ 登山・民俗』第5版, 大町[[山岳博物館]]編, 信濃路 発行, 1974年
菊池俊朗『北アルプス この百年』文春新書, 2003年
菊池俊朗『白馬岳の百年』 山と渓谷社, 2005年
ウォルター・ウェストン『日本アルプス再訪』水野勉訳, 平凡社ライブラリー, 1996年
はまみつを『黎明の北アルプス』郷土出版社, 1994年
横山篤美『山人のムラ』シリーズ山と民俗：産学社, 1989年
武田文男『山で死なないために』朝日文庫, 1990年

外部リンク

嘉門次小屋
嘉門次小屋ホームページ
* 上高地公式Website

もう一度検索