上瀬谷通信施設

概要と歴史

上瀬谷通信施設は、神奈川県横浜市旭区と瀬谷区にまたがる広大な敷地（約242ヘクタール）に位置していた在日アメリカ海軍の基地です。もともとは旧日本海軍の施設として利用されていましたが、第二次世界大戦の終結に伴い1945年8月に米軍に接収され、通信基地としての歴史が始まりました。一度接収が解除されたものの、1951年3月には米海軍によって再び接収されました。

基地は当初、アメリカ国家安全保障局（NSA）の指揮下で、電波傍受や暗号解読といった情報収集活動の重要な拠点として機能しました。冷戦期には海軍保安群（NSGC）隷下の部隊が中心となっていましたが、1973年には大部分の部隊が青森県の三沢飛行場へ移駐。その後も一部部隊や他の海軍組織が配置され運用が続けられました。しかし、冷戦終結などの国際情勢の変化に伴い基地の役割は縮小し、1995年には通信施設としての性格から支援施設へと変更されました。最終的に、施設警備の海兵隊も撤退し、2015年 6月30日に施設を含む土地全体が日本政府へ返還される際には、基地内に常駐する部隊は無人となっていました。

基地の利用と地域への影響

広大な敷地はフェンス等で囲まれた立ち入り禁止の囲障区域と、それ以外の区域に分かれていました。囲障区域外では、返還前にもかかわらず農耕や野球場としての利用が一部で認められており、地域住民との接点がありました。また、敷地内を通過する環状4号線（通称「海軍道路」）は一般車両の通行が許可され、特に沿道に植えられたソメイヨシノの並木は春になると見事な花を咲かせ、花見スポットとして親しまれていました。毎年4月には施設内の広場で「日米親善桜祭り」が開催されるなど、交流の場も設けられていました。

一方で、基地の存在は地域開発に影響を与えました。特に、海外からの微弱な電波を受信する目的があったため、瀬谷区の北半分は1995年3月まで「電波障害防止地域」に指定され、建物の高さ規制などが課されました。これは瀬谷区の発展を遅らせる要因の一つになったと考えられていますが、この規制は基地返還に先行して1995年4月1日に解除されています。

特筆される出来事

この基地の歴史において特筆すべき出来事がいくつかあります。1965年 9月24日には、基地内で火災が発生し、受信所などが焼失、12名の米軍人が犠牲となる痛ましい事故が起きました。原因は漏電とされていますが、新たに設置された焼却炉が関連しているとの指摘もありました。火災発生時には日本の消防隊も駆けつけましたが、基地内であったため消火活動を行うことができませんでした。

また、上瀬谷通信施設はアメリカ国家安全保障局（NSA）の歴史に関連する重要な舞台ともなりました。1960年9月、ここで勤務していた2名のNSA職員がソ連へ亡命し、その後の記者会見でそれまで極秘とされていたNSAの存在を公にしました。これにより、アメリカ政府はNSAの存在を認めざるを得なくなりました。この事件は、その後のNSA内部における職員管理や同性愛者への対応に変化をもたらすきっかけともなりました。

返還後の跡地利用計画

2015年の返還後、広大な跡地の利用計画が進められています。跡地の一部は農地として活用されるほか、最も注目されているのは2027年3月から9月にかけて開催される国際園芸博覧会（GREEN×EXPO 2027）の会場となることです。

博覧会開催後を見据え、跡地には大規模な集客施設の開発が計画されています。当初は複数の事業者が検討を進め、大型テーマパークの構想が報じられていましたが、紆余曲折を経て、2023年9月には三菱地所が事業予定者に決定しました。同社は、企業連合（三菱地所、相鉄ホールディングス、東急、東急不動産、三菱倉庫）を設立し、アニメ・ゲーム・動画などの国内コンテンツや先端技術を取り入れた「次世代型テーマパーク」や自然体験施設などを組み合わせた「KAMISEYA PARK（仮称）」として整備する計画です。国際園芸博覧会終了後の2028年頃に着工し、2031年頃の開業を目指しています。

また、跡地へのアクセス手段として、新たな交通システムの整備も検討されてきました。当初は相鉄線瀬谷駅との間にAGT（新交通システム）を導入する構想があり、環境アセスメントも進められましたが、テーマパーク構想の遅れなどから、2021年12月には博覧会までの開業を断念しました。その代替として、2024年2月には地下トンネルを主体とした隊列走行の連節バスシステムを導入する計画が公表されました。このシステムは2030年代前半の供用開始を目指しており、将来的には自動運転技術の導入も視野に入れています。環状4号線などを活用した周辺地域への交通網拡充も考慮されており、跡地開発とともに地域の交通インフラの整備も進められます。

上瀬谷通信施設跡地は、かつての軍事拠点から、未来を見据えた大規模な公園、博覧会会場、そして新たなエンターテインメントと交通の拠点へと生まれ変わろうとしています。その今後の展開に、多くの注目が集まっています。

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