上総広常

平安時代末期の武将上総広常：生涯、源頼朝との関係、そして最期

上総広常(かずさひろつね)は、平安時代末期に活躍した武将であり、房総平氏惣領家の棟梁でした。上総権介平常澄の八男として生まれ、「介八郎」の通称でも知られています。本名は平広常(たいらのひろつね)で、上総介は官職名です。

上総氏と房総における勢力

広常が活動した12世紀末の上総国では、上総氏がそのほとんどを領有するほど大きな勢力を持っていました。広常は家督を相続し、上総国衙において最も有力な存在である権介として、広大な領土を支配するほぼ一国規模の封建的軍事体制を築き上げていました。

平治の乱と家督争い

広常は若い頃から武勇に優れ、源義朝の郎党として活躍しました。保元の乱(1156年)と平治の乱(1159年)では義朝、義平父子の軍に加わり、特に平治の乱では義平十七騎の一人として名を馳せました。平治の乱の敗戦後、平家の追撃を逃れ、上総国に帰国しました。その後、父・常澄の死をきっかけに、兄たちとの間で上総氏家督を巡る激しい争いが勃発しました。この争いは源頼朝の挙兵時まで続きました。平家の有力家人・伊藤忠清が上総介に任ぜられると、広常は国務を巡って対立し、平清盛から勘当を受ける事態に陥りました。

源頼朝への参陣と貢献

治承4年(1180年)8月、源頼朝が平氏打倒の兵を挙げ、石橋山の戦いで敗北した後、安房国で再起を図りました。この時、広常は2万騎(諸説あり)の大軍を率いて頼朝のもとに参陣しました。頼朝は広常の遅参を咎めましたが、広常の武力と勢力に目をつけ、彼と和睦しました。『吾妻鏡』などの史料からは広常が最初から頼朝に加担していた可能性が高いとされています。広常の参陣は、平家方勢力の掃討を意味し、頼朝が安房から上総、下総へと容易に進軍できた要因の一つと考えられています。

富士川の戦い(1180年11月)では、頼朝追討軍に加わっていた兄・印東常茂を討ち取り、房総平氏を統一下に収めました。その後、頼朝の命に従い、常陸源氏の佐竹氏討伐にも参加し、佐竹義政を殺害するなど、頼朝への貢献は多大でした。しかし、『吾妻鏡』には、広常が頼朝や他の御家人に対して傲慢な態度を取っていた記述も見られます。これは鎌倉時代後期に編纂された史料であり、正確性に疑問符が付きます。

頼朝との対立と最期

寿永2年(1183年)12月、謀反の噂が流れ、頼朝の疑いを招いた広常は、梶原景時によって鎌倉の御所で暗殺されました。嫡男の上総能常も共に殺害され、上総氏は没落しました。後に広常の鎧から発見された願文には反逆の意思はなく、頼朝の武運を祈る内容だったとされ、頼朝は後悔したと伝えられています。しかし、願文発見の逸話も『吾妻鏡』にのみ記されており、信憑性は不明です。広常の死後、千葉氏が房総平氏の当主を継承しました。

広常の死は、頼朝政権の朝廷との協調路線と、東国独立を志向する広常ら関東武士層との対立が背景にあったと推測されます。広常は以仁王の令旨を支持し、関東の自立を強く主張していたため、頼朝にとって脅威となり、暗殺されたと考えられています。

慈円の『愚管抄』には、頼朝が後白河法皇との対面で、広常の関東の自立を望む姿勢について述べている記述があり、広常の死の背景を理解する上で重要な資料です。

上総広常の館跡

広常の館跡の正確な位置は不明ですが、千葉県いすみ市や御宿町周辺で中世城館跡の調査が行われ、いくつかの候補地が挙げられています。布施村(現いすみ市)、一宮柳沢城(現一宮町または睦沢町)、東金市松之郷の新山城など、複数の説が存在し、現在も議論が続いています。

評価

歴史学者野口実は、広常を「大風呂敷で露骨な大言壮語を吐くが、根は気の小さい、やさしい性格」と評しています。