上野彦馬

上野 彦馬の生涯と功績

上野 彦馬（うえの ひこま、1838年10月15日 - 1904年5月22日）は、日本の写真界において極めて重要な位置を占める人物であり、幕末から明治時代にかけて活躍した初期の写真家として知られています。彼の本名は彦馬ですが、号は季渓で、家紋は桔梗の二引です。彦馬は、初の戦場カメラマンとしての業績でも名高い存在です。

彼は天保9年（1838年）に長崎で誕生し、蘭学者の家庭に育ちました。若い頃は広瀬淡窓の私塾、咸宜園で学び、その後、安政5年（1858年）にはオランダの医学伝習所で舎密学を学ぶことになります。この時期に蘭書を通じて湿板写真術に興味を持ち、写真技術の習得に励みました。さらに、当時来日したプロ写真家ピエール・ロシエからも学び、その経験を活かして写真技術を深めました。

彦馬は1862年、故郷の長崎に戻り、「上野撮影局」を開設します。この撮影局は、日本における初期の写真館の一つであり、彦馬は職業写真師として活動を始めます。彼のスタジオでは坂本龍馬や高杉晋作など、幕末の志士たちや明治時代の名士たちの肖像写真が多く撮影されました。

維新後の1874年、彦馬は金星の太陽面通過の観測写真を撮影し、この業績は日本初の天体写真とされています。さらに1877年には、西南戦争の戦跡を撮影し、日本初の戦跡写真としても評価されることになりました。当年に行われた第1回内国勧業博覧会では、鳳紋褒賞を受賞し、彼の作品はその歴史的・文化的価値が高く評価されました。

写真業が発展する中で、彦馬はウラジオストク、上海、香港などに支店を持ち、後進の指導にも努めました。彼の門下からは富重利平や田本研造など、多くの写真家が育成されました。

彼の業績は単に写真にとどまらず、化学の視点から写真術にアプローチしたことにも意義があります。化学薬品の自製に成功するなど、技術的な革新を生み出しました。明治37年（1904年）に長崎で亡くなるまで、彼は67年間の生涯を通じて日本の写真界に大きな影響を与え続けました。

彦馬の遺した作品とその技術は、現在でも多くの人々に評価されています。写真は単なる記録にとどまらず、歴史を語る重要な文化資産として、その存在意義を証明し続けています。

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