下元連
下元 連（しももと むらじ、1888年 - 1984年10月2日）は、日本の建築界に足跡を残した大蔵官僚であり、卓越した建築家、そして工学者でもありました。日本建築学会の副会長や戦災復興院の技監・営繕部部長、さらには工学院大学工学部の教授など、多岐にわたる要職を務め、その専門知識と経験を活かしました。
下元連は、大蔵省（現在の財務省）に技師として所属し、数多くの重要な官公庁建築の設計を任されました。その中でも特筆すべきは、後に総理大臣公邸に転用された総理大臣官邸の設計です。その他にも、内閣書記官長官舎（現在の内閣官房長官官舎）、警視庁、内務省庁舎（後の人事院ビル）、大蔵省庁舎（現在の財務省庁舎）、そして横浜、門司、長崎の各税関庁舎など、日本の統治機構を支える施設の設計に深く関わりました。
総理大臣官邸の設計においては、敷地内にあった約2メートルにも及ぶ段差の克服や、建物内の空間配置に苦心したことが知られています。また、資材選定にも携わり、喫煙室の内装以外は全て国産材を用いることを徹底しました。大蔵省庁舎の設計にも関与しましたが、当時は物資が不足し始めており、工事が中断されるなど困難が伴い、最終的に外壁タイル貼りが未完成のまま竣工扱いとなった経緯があります。
太平洋戦争終結後、下元は戦災復興院（現在の国土交通省に繋がる組織）に移り、技監および営繕部部長として、戦災で荒廃した官公庁施設の復旧を指揮しました。この時期は、国家の再建に向けた重要な局面であり、彼の技術とリーダーシップが求められました。復興の第一線で活躍した後、大蔵省を退官し、自身の事務所である「下元建築事務所」を開設して実務を継続しました。同時に、工学院大学工学部の教授として教壇に立ち、次世代を担う建築家の育成にも尽力しました。
下元は自身の設計の特徴として、「一階の窓を丸くする」ことを挙げており、警視庁や内務省、長崎税関といった作品に見ることができます。
彼の代表作とされる総理大臣官邸の設計は、基本計画やプランを下元が担当し、笹倉梅太郎らが製図を担当するという共同作業でした。総理大臣官邸にはフランク・ロイド・ライトの影響が指摘されることがありますが、下元自身は模倣ではなく「ライト風」「ライトスクール」であると位置づけ、特に玄関ホールのインテリアは「最もライト思想が濃い」部分であり、若手である笹倉らの手腕によるところが大きいと述懐しています。当時の建築界では、ライトが設計した帝国ホテルの影響を受けて若い建築家たちが惹きつけられるのは当然の風潮だったとも語っています。笹倉のデザイン能力を高く評価し、「細かいデザインなど、ライト風でありながらよく仕上げたものだ」と感心した様子を伝えています。官邸が「華やか過ぎる」「あまりにライト的」という批判に対しては、迎賓機能を持つ建物の性質上、華やかさも必要であると反論しました。当時の東京帝国大学教授であった佐野利器が実際に現場を視察し、高評価を下したことで下元は安堵したというエピソードも残されています。
下元の人柄や思想は、いくつかのエピソードから垣間見えます。濱口政権時、総理大臣官邸の塀を高くするよう要請された際には、景観を損なうとして反対し、塀の高さを変えずに有刺鉄線を設置することで対応しました。しかし、塀の高さで人心を変えることはできないという懸念を抱いていた矢先、濱口首相が襲撃される事件が発生するという皮肉な結果となりました。
また、総理大臣は官邸に常駐すべきであるという持論を持ち、官邸として設計された建物に公人として住まうべきだと考えていました。特に、公邸に居住しなかった吉田茂に対しては、「大磯あたりからワンマン道路を造って通うのはけしからん」と辛辣な批判を浴びせています。
1985年、当時の総理大臣中曽根康弘が総理大臣官邸を「有名なライトの設計」と誤って紹介した出来事は、設計者である下元の名が一般には広く知られていなかった事実を示唆しています。
下元が設計した建築物の中には、太平洋戦争による被災で失われたものも少なくありません。また、戦後の政府組織再編などにより、呼称が変わったり、当初の用途から転用されたものも多くあります。旧総理大臣官邸は、新しい官邸の建設に伴い移築され、現在は総理大臣公邸として利用されています。
彼の主な作品には、内閣総理大臣官舎（後の総理大臣官邸、現・総理大臣公邸）、内閣書記官長官舎（現・内閣官房長官官舎）、警視庁庁舎、内務省庁舎（現・人事院ビル）、大蔵省庁舎（現・財務省庁舎）、横浜税関、門司税関、長崎税関などがあります。工学院大学八王子キャンパス1号館も彼の設計でしたが、後に解体されました。
これらの建築物や教育活動を通して、下元 連は日本の近代建築史において重要な役割を果たしました。
主な著作
『博物館・商品陳列館』常磐書房、1933年
『博物館・商品陳列館』改訂版、常磐書房、1936年
* 『建築家下元連九十六年の軌跡』営繕協会、1985年
彼の功績は、戦災からの復興、そして後世の建築家育成といった多岐にわたる分野で、日本の建築文化に貢献しました。
官公庁建築における功績
下元連は、大蔵省（現在の財務省）に技師として所属し、数多くの重要な官公庁建築の設計を任されました。その中でも特筆すべきは、後に総理大臣公邸に転用された総理大臣官邸の設計です。その他にも、内閣書記官長官舎（現在の内閣官房長官官舎）、警視庁、内務省庁舎（後の人事院ビル）、大蔵省庁舎（現在の財務省庁舎）、そして横浜、門司、長崎の各税関庁舎など、日本の統治機構を支える施設の設計に深く関わりました。
総理大臣官邸の設計においては、敷地内にあった約2メートルにも及ぶ段差の克服や、建物内の空間配置に苦心したことが知られています。また、資材選定にも携わり、喫煙室の内装以外は全て国産材を用いることを徹底しました。大蔵省庁舎の設計にも関与しましたが、当時は物資が不足し始めており、工事が中断されるなど困難が伴い、最終的に外壁タイル貼りが未完成のまま竣工扱いとなった経緯があります。
戦後復興と教育活動
太平洋戦争終結後、下元は戦災復興院（現在の国土交通省に繋がる組織）に移り、技監および営繕部部長として、戦災で荒廃した官公庁施設の復旧を指揮しました。この時期は、国家の再建に向けた重要な局面であり、彼の技術とリーダーシップが求められました。復興の第一線で活躍した後、大蔵省を退官し、自身の事務所である「下元建築事務所」を開設して実務を継続しました。同時に、工学院大学工学部の教授として教壇に立ち、次世代を担う建築家の育成にも尽力しました。
設計思想と総理大臣官邸
下元は自身の設計の特徴として、「一階の窓を丸くする」ことを挙げており、警視庁や内務省、長崎税関といった作品に見ることができます。
彼の代表作とされる総理大臣官邸の設計は、基本計画やプランを下元が担当し、笹倉梅太郎らが製図を担当するという共同作業でした。総理大臣官邸にはフランク・ロイド・ライトの影響が指摘されることがありますが、下元自身は模倣ではなく「ライト風」「ライトスクール」であると位置づけ、特に玄関ホールのインテリアは「最もライト思想が濃い」部分であり、若手である笹倉らの手腕によるところが大きいと述懐しています。当時の建築界では、ライトが設計した帝国ホテルの影響を受けて若い建築家たちが惹きつけられるのは当然の風潮だったとも語っています。笹倉のデザイン能力を高く評価し、「細かいデザインなど、ライト風でありながらよく仕上げたものだ」と感心した様子を伝えています。官邸が「華やか過ぎる」「あまりにライト的」という批判に対しては、迎賓機能を持つ建物の性質上、華やかさも必要であると反論しました。当時の東京帝国大学教授であった佐野利器が実際に現場を視察し、高評価を下したことで下元は安堵したというエピソードも残されています。
人物像と発言
下元の人柄や思想は、いくつかのエピソードから垣間見えます。濱口政権時、総理大臣官邸の塀を高くするよう要請された際には、景観を損なうとして反対し、塀の高さを変えずに有刺鉄線を設置することで対応しました。しかし、塀の高さで人心を変えることはできないという懸念を抱いていた矢先、濱口首相が襲撃される事件が発生するという皮肉な結果となりました。
また、総理大臣は官邸に常駐すべきであるという持論を持ち、官邸として設計された建物に公人として住まうべきだと考えていました。特に、公邸に居住しなかった吉田茂に対しては、「大磯あたりからワンマン道路を造って通うのはけしからん」と辛辣な批判を浴びせています。
1985年、当時の総理大臣中曽根康弘が総理大臣官邸を「有名なライトの設計」と誤って紹介した出来事は、設計者である下元の名が一般には広く知られていなかった事実を示唆しています。
作品の変遷と遺したもの
下元が設計した建築物の中には、太平洋戦争による被災で失われたものも少なくありません。また、戦後の政府組織再編などにより、呼称が変わったり、当初の用途から転用されたものも多くあります。旧総理大臣官邸は、新しい官邸の建設に伴い移築され、現在は総理大臣公邸として利用されています。
彼の主な作品には、内閣総理大臣官舎（後の総理大臣官邸、現・総理大臣公邸）、内閣書記官長官舎（現・内閣官房長官官舎）、警視庁庁舎、内務省庁舎（現・人事院ビル）、大蔵省庁舎（現・財務省庁舎）、横浜税関、門司税関、長崎税関などがあります。工学院大学八王子キャンパス1号館も彼の設計でしたが、後に解体されました。
これらの建築物や教育活動を通して、下元 連は日本の近代建築史において重要な役割を果たしました。
主な著作
『博物館・商品陳列館』常磐書房、1933年
『博物館・商品陳列館』改訂版、常磐書房、1936年
* 『建築家下元連九十六年の軌跡』営繕協会、1985年
彼の功績は、戦災からの復興、そして後世の建築家育成といった多岐にわたる分野で、日本の建築文化に貢献しました。
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