下平吉長

下平吉長（しもだいら よしなが）

激動の戦国時代から安土桃山時代にかけて越後国に生きた武将、下平吉長は、上杉氏に仕えた家臣の一人でした。彼の本拠地は越後国魚沼郡妻有郷にある千手城であり、その地の城主を務めていました。

吉長の生涯で特筆される出来事の一つは、天文23年（1554年）頃から弘治2年（1556年）にかけて展開された、上野家成との所領を巡る激しい争いです。この対立は、特に上田地域の領有権を巡るものでした。単なる個人の諍いに留まらず、下平方に加担した大熊朝秀らと、上野方を支持する本庄実乃ら、上杉家臣団内の主要人物をも巻き込む大規模な争いへと発展しました。この内紛は非常に深刻であり、当時の上杉家（長尾氏）の盟主であった長尾景虎（後の上杉謙信）が、家臣間の度重なる争いに厭世的な気持ちになり、出奔して出家騒動を引き起こす一因となった、という伝承も残されています。

また、永禄7年（1564年）7月5日には、上田領主であった長尾政景を野尻池で溺死させた、すなわち謀殺したとの説が存在します。この衝撃的な出来事については、『穴沢文書』にその記述が見られるとされています。さらに、この際、吉長自身も長尾政景と共に溺死したとする説も一部にありますが、これはあまり一般的ではありません。広く知られているのは、この溺死は吉長ではなく、同じく上杉家臣であった宇佐美定満であったとする説であり、『北越軍談』をはじめとする軍記物などに記されています。複数の説が存在することからも、この一件の複雑さと、当時の混乱した状況がうかがえます。

その後、下平吉長は、上杉謙信の死後に勃発した家督相続を巡る内乱、「御館の乱」（天正6年、1578年）において、上杉景虎方に味方しました。当時の上杉家は、謙信の養子である上杉景勝と上杉景虎の間で二分され、多くの家臣団がどちらかの陣営に属して戦いを繰り広げました。吉長が景虎方についた具体的な理由は定かではありませんが、この選択が彼のその後の運命を決定づけました。

御館の乱は最終的に上杉景勝方の勝利に終わりました。敗れた景虎方に加担した吉長は、その責任を問われ、乱の終結後に自らの所領を没収されることとなりました。彼の失った千手城を中心とする領地は、新たに小森沢政秀という人物に与えられたと記録されています。このように、下平吉長は上杉家の一武将として越後の争乱期を生き抜きましたが、晩年は主家内の抗争に巻き込まれ、所領を失い歴史の表舞台から姿を消すこととなりました。彼の生涯は、戦国武将が主君や時勢の変遷によって大きく運命を左右された一例と言えるでしょう。

脚注：
本記事は主に『穴沢文書』や『北越軍談』などの記述に基づき、通説とされる情報をもとに構成しています。ただし、記述されている出来事や人物の行動には複数の解釈や異説が存在する場合があります。

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