下野敏見

下野敏見（しもの としみ）

日本の民俗学者として知られる下野敏見は、1929年（昭和4年）4月4日にこの世に生を受け、2022年3月10日に92歳でその生涯を閉じました。特に南日本地方の民俗研究においては、その第一人者と称される存在であり、日本民俗学会でも権威として認められていました。

経歴と研究活動

現在の鹿児島県南九州市にあたる、旧川辺郡知覧町に生まれた下野は、鹿児島県立川辺高等学校を経て、鹿児島大学文理学部社会学科で学びました。大学卒業後は、鹿児島県内の各地で高等学校教員として教壇に立ち、その後、鹿児島大学法文学部教授や鹿児島純心女子大学教授を務めるなど、教育・研究の現場で長く活躍しました。

民俗学への傾倒は、高校教員時代に始まります。夏休みが来るたびに屋久島へ足を運び、古老たちを訪ねて昔話を聞き集めることに熱心に取り組みました。この初期の経験から、下野は「フィールドワーク」、すなわち現場での調査を研究の根幹に据えることを信条としました。彼はその後も県内外を精力的に巡り、南九州から遠く沖縄県に至るまでの広範な地域で、長年にわたり粘り強く民俗調査を継続しました。この飽くなき現場主義と深い洞察力によって、南日本地方の多様な民俗文化の様相を明らかにしたのです。

業績と評価

下野敏見の研究は、南日本地方の民俗学に多大な貢献をもたらしました。地域の祭礼、芸能、信仰、生活習慣、そして昔話など、多岐にわたるテーマを詳細に調査・分析し、その成果を世に問い続けました。その功績は高く評価され、第1回柳田賞や第52回南日本文化賞など、数々の栄誉に輝いています。

彼の研究成果は、多数の著作として発表されています。代表的なものとしては、『田の神と森山の神』、『御田植祭りと民俗芸能』、『南九州の伝統文化』、『奄美・吐カ喇の伝統文化』、『屋久島の民話』、『鹿児島ふるさとの昔話』などが挙げられますが、その著作は実に多岐にわたり、南日本の民俗を理解する上で欠かせない貴重な文献となっています。これらの著書を通じて、彼は地域の伝統文化が持つ深い意味や、日本全体の民俗文化における南日本地方の重要性を論じました。

晩年と逝去

下野敏見は、晩年も民俗学の研究に情熱を傾け続けましたが、2022年3月10日午後11時42分、老衰のため、鹿児島県鹿児島市下伊敷のご自宅で、92歳の生涯に静かに幕を下ろしました。

彼の残した膨大な調査記録と著作は、今後も南日本地方の民俗文化を研究する上で不可欠な資料であり、その業績は長く語り継がれるでしょう。下野敏見は、まさに「歩く民俗学者」として、地域の声に耳を傾け、その文化を丁寧に拾い上げた、日本民俗学界の偉大な研究者でした。

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