下館市

下館市（旧市）

茨城県の北西部に位置し、かつて下館都市圏の中核都市として栄えた下館市は、二〇〇五年三月に周辺の三町と合併し、現在の筑西市の一部となりました。一千年以上の歴史を持つ「下館」の地名は、市町村合併に伴い行政上の表記からは姿を消しましたが、地域の人々の記憶や習慣の中には今も深く根付いています。

その歴史は古く、地名の由来には諸説ありますが、平安時代の九四〇年（天慶三年）に下野押領使の藤原秀郷が平将門の乱を平定する際に「上館」「中館」「下館」の三つの砦を築いたことに始まると伝えられています。また、それ以前の七八一年には藤原魚名が築いたとする説もあります。平安後期から鎌倉時代にかけては伊佐氏の所領となり、親鸞の教えを受けた弟子たちが光徳寺や最勝寺といった古刹を建立しました。

室町時代の一四七八年頃には、下総結城氏の家臣であった水谷伊勢守勝氏が下館城を築城し、以降水谷氏が結城家から独立してこの地を治めます。江戸時代に入ると、下館藩の城下町として整備され、特に徳川光圀の兄である松平頼重が入封した際には、水戸の城下町に倣った計画的な町割りが行われました。その後、水谷氏に代わって石川氏が約一三〇年間にわたり治め、この間、周辺で生産される真岡木綿や結城紬の集散地として、また活気あふれる商業の町として発展を遂げ、「関東の大阪」と呼ばれるほどの繁栄を誇りました。一七四二年には俳人の与謝蕪村がこの地を訪れ、滞在した記録も残っています。天保期には飢饉に見舞われましたが、藩主の招聘により二宮尊徳が五所宮で仕法（報徳仕法）を行うなど、改革への試みも行われました。

近代に入り、一八八九年（明治二二年）の町制施行により、旧城下町を中心とした真壁郡下館町が誕生します。明治から大正にかけて、下館駅には水戸鉄道（現在のJR水戸線）、真岡軽便線（現在の真岡鐵道）、常総鉄道（現在の関東鉄道常総線）が次々と開業し、下館は北関東における重要な交通の結節点となりました。この頃には足袋底織産業も発達し、戦後まで全国市場をほぼ独占するほどの隆盛を極めました。

昭和時代に入ると、一九五〇年代の「昭和の大合併」において、一九五一年に伊讃村と合併、その後竹島村、養蚕村、そして五所村、中村、河間村、大田村、嘉田生崎村を編入し、一九五四年三月一五日に市制を施行し、下館市が誕生しました。しかし、二〇〇五年の「平成の大合併」により、下館市は関城町、明野町、協和町と合併し、新たに筑西市が誕生したことで、行政区域としての「下館市」はその歴史に幕を下ろしました。市内に「下館」という字名が存在しなかったこともあり、千年以上続いた地名が正式な住所表記から消滅したことは、地域に大きな影響を与えました。

地域社会においては、JR水戸線・関東鉄道常総線・真岡鐵道という三線のターミナル駅である下館駅周辺が中心市街地を形成しています。特に「甲」「乙」「丙」と呼ばれる旧市内の地区は、かつて「下館商人」と呼ばれた活気ある商人の町として栄え、その気質は今も受け継がれています。旧市内には行政上の「甲乙丙」という住所表記とは別に、古くから伝わる「通称町名」があり、下館祇園祭での神輿出しや自治会活動、地域の集会所である児童館など、住民生活においてはこちらの町名の方がより身近で重視されるという特徴的な文化がありました。この通称町名は、合併後の筑西市においても住所表記に付して使われるなど、地域コミュニティの絆として息づいています。

交通網としては、鉄道の結節点である下館駅を中心に、国道五〇号、二九四号、四〇八号などの幹線道路が通り、地域の流通を支えていました。教育面では、県立の下館第一高等学校、下館第二高等学校、下館工業高等学校などが置かれ、多くの人材を育成しました。また、図書館（現在の筑西市立中央図書館）や警察署（現在の筑西警察署）など、公共施設も充実していました。

歴史上の人物から現代の文化人、スポーツ選手まで、数多くの著名人を輩出した下館市。陶芸家の板谷波山や洋画家の森田茂、オペラ歌手の中丸三千繪、プロゴルファーの片山晋呉などが、この地ゆかりの人物として知られています。また、江戸時代の「関東の大阪」と称された商業の賑わい、鉄道がもたらした交通の要衝としての地位、そして脈々と受け継がれる通称町名の文化など、下館市は多様な顔を持つ魅力的な地域でした。その名は行政区域から消えましたが、歴史的な意義や地域文化は、合併後の筑西市の中に確かに引き継がれています。

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