不動穀

不動穀（ふどうこく）についての考察

概要

不動穀は、日本の律令制において特に重要な役割を果たした正税の一種でありました。これは、令制国における正税である稲穀を、専用の倉庫に貯蔵し、封印したものを指します。また、粟を用いた不動粟穀や、酒の形で保管された不動酒も不動穀に含まれます。この制度は、律令制の発展に伴って構築され、特に国家の安定を支えるために必要な仕組みとされました。

不動穀の管理とその背景

和銅元年の太政官符によって、不動穀の貯蔵と専用倉庫の設置が奨励されたことを受け、国衙や郡衙に設置された倉庫に稲穀が貯蔵され、満載状態になると、国司や郡司による検封作業が行われ、その後封印されて不動倉として位置づけられました。こうして貯蔵された稲穀は不動穀と呼ばれ、国家の非常時に備える役割を果たしました。

この不動倉の鍵は、太政官に進上され、厳重に保管されていました。飢饉などの非常時には、特別に不動倉を開封する申請を行い、許可を得ることで一部を使用することが認められました。こうした管理体制は極めて厳格であり、約30年にわたり田租収入の30年分に相当する貯蔵が行われたとされています。

問題と改革

しかし、倉庫令では定期的に穀物を入れ替えることが義務付けられていたにもかかわらず、不動倉の厳重な管理から、不動穀が長期間放置され、腐敗する事例が発生しました。これを受けて天平12年に、穀物の管理方法が見直され、定期的に中身を入れ替えることが求められました。この判断は適切でしたが、その結果、不動穀の管理原則が崩れる事態を呼びました。

また、この時期には、恭仁京への遷都や東大寺の大仏造営などに伴い国の財政が悪化し、地方の正税が中央に送られる一方で、不動穀が消費され始めました。律令政府はこの状況を抑制するのではなく、平安京造営や蝦夷討伐のために不動穀を上供させたり、また年料租舂米などの国税を抽出するようになり、ますます不動穀の減少が進みました。

不動穀制度の崩壊

この結果、正税と不動穀のバランスが崩れ、不動穀は慢性的な流出状態になりました。その後、律令制を支えていた租庸調などの税制が崩壊し、不動穀自体の存在意義も薄れていきました。また、宇多天皇の『寛平御遺誡』によれば、9世紀末には不動穀が廃絶寸前であることが示されています。

再建策が試みられるも、その効果は薄く、康保元年には田租に代わる新委不動穀制が導入されましたが、管理が令制国側に委ねられたため実施されず、11世紀中期には税制が変更されたことにより、不動穀制度は事実上消滅したと考えられています。

歴史的意義

律令制における田租の起源は、神事のために地元の豪族に献上されていた初穂にあり、朝廷がこれを自己のために課税する形で権限を強化したとも言われています。不動穀の制度化は、在地首長との関係を遮断し、国家の統制を高める意図があったのかもしれません。これらの複雑な背景を理解することで、日本の古代史における資源管理や政治体制の変遷を把握する手助けとなります。

もう一度検索