世宗 (金)

金の皇帝、世宗：大定の治を築いた名君

世宗（1123年 - 1189年）は、金の第5代皇帝であり、女真名は烏禄（ウル）、漢名は褎（ゆう）、のち雍（よう）と称しました。太祖阿骨打の孫にあたり、金の最盛期である「大定の治」を築いたことで知られています。

生涯

世宗は天輔7年（1123年）に、訛里朶（オリド）と側室の李氏の間に生まれました。成人後は葛王に封じられ、兵部尚書、判大宗正事、中京留守などを歴任しました。伝えられるところによれば、胸に北斗七星の痣があり、腹まで伸びる美しい髭を持ち、騎射に優れていたとされています。父と同様に仁孝な性質でしたが、従兄にあたる皇帝迪古乃（海陵王）とは折り合いが悪かったようです。

猜疑心の強い海陵王を欺くため、世宗は妻の烏林荅氏が海陵王に迫られて自殺した際にも不満を見せない素振りを見せました。これにより海陵王は世宗を暗愚な人物とみなし、軽視するようになりました。世宗は即位後、亡き妻に皇后位を贈り、生涯にわたって他の女性を皇后にすることはありませんでした。

正隆6年（1161年）、世宗は東京留守に任じられました。海陵王が南宋遠征に出征すると、海陵王の独裁と暴政に不満を持つ金の貴族たちは、その留守を衝いて華北で謀反を計画し、以前から不満を募らせていた世宗を担ぎ上げようとしました。海陵王の腹心である東京副守の高存福が世宗を監視していましたが、追い詰められた世宗は高存福を誅殺し、貴族たちに擁立されて即位しました。そして海陵王の廃位を宣言し、海陵王は揚州の亀山寺の陣中で殺害されました。

治世

大定2年（1162年）、世宗は舅父の僕散忠義の補佐を得て、海陵王の南伐軍を打ち破った勢いで金領に進軍してきた南宋軍を撃退し、契丹の反乱を鎮圧して海陵王晩年の混乱を収拾しました。大定4年（1164年）には、南宋との間で乾道の和約を結び、従来の君臣関係を叔姪関係へと緩和し、歳貢を歳幣と呼び換え、歳貢の額を減額しました。また、契丹人の反乱を鎮圧し国内を安定させました。

世宗は海陵王の遠征で大きく損なわれた財政の再建を目指し、増税を行い、官吏を削減しました。南宋でも孝宗が名君として立ち、その後40年にわたって両国の間では平和が保たれ、金朝は繁栄と安定の時代を迎えました。

内政面においては、暴政と長引いた戦争のため窮乏した財政を再建し、税制改革や官吏の人事刷新など、様々な改革を行いました。また、漢族の文化にも理解を示して文化を発展させるなど、「中興の名君」と呼ばれるにふさわしい様々な事業を行い、「小堯舜」と称されました。

大定の治とその後

世宗の治世は、金の最盛期と評価され、後世においては「大定の治」として高く評価されています。しかしその一方で、猛安・謀克の軍事集団に組織化されていた女真人が長引く平和に慣れ、漢人と雑居して経済的に没落し、文化的に漢人と同化して中国社会に埋没してゆく傾向が明らかになりました。世宗は女真文字の使用を奨励し、女真の風俗文化を維持する政策を採りましたが、ほとんど効果はなく、金の軍事力を支えた女真軍団の形骸化が進んでいきました。

また、財政再建の過程で増税を行ったために民衆の生活は逼迫し、その後の社会の不安定化や国家衰退の要因になったとする説もあります。

宗室

正妃：明徳皇后 烏林荅氏（即位前に没し、皇后の位を追贈された）
元妃：張氏、李氏
その他妃嬪：梁氏、石抹氏、大氏、徒単氏
男子：鎬王 実魯剌（允中）、宣孝太子 胡土瓦（允恭）など多数
* 女子：魯国公主、呉国公主など多数

世宗は金の最盛期を築き上げた名君として知られていますが、その治世の裏では、社会の変容や矛盾も孕んでいました。彼の功績と課題は、後世の歴史に深く影響を与えました。

もう一度検索