世界を売った男

世界を売った男（The Man Who Sold the World）

デヴィッド・ボウイにとって、1970年にリリースされた3枚目のスタジオ・アルバムです。原題は『The Man Who Sold the World』。

制作背景

前作『スペイス・オディティ』を発表した後、ボウイはライブ活動を本格化させるため、新たなバックバンドの結成を模索していました。いくつかのセッションを通じて親交を深めたミュージシャンたちと共に、ギタリストとして将来の重要なパートナーとなるミック・ロンソンを迎え入れたバンド「ハイプ」が誕生します。彼らは1970年2月にカムデン・タウンのラウンド・ハウスで最初のパフォーマンスを行い、活動を開始しました。

その後、「ハイプ」のドラマーだったジョン・ケンブリッジが脱退し、ミック・ロンソンの以前のバンドからミック・ウッドマンジーが後任として加入します。この新しいラインナップで、彼らはアルバム制作に先駆けて、『スペイス・オディティ』に収録されていたボウイお気に入りの楽曲「フリー・フェスティバルの思い出」をシングルのために再レコーディングし、6月12日に発表しました。

アルバム『世界を売った男』のレコーディングは、1970年4月18日にスタートしました。バンド「ハイプ」のメンバーに加え、シンセサイザー奏者のラルフ・メイスが制作に参加しています。プロデューサーおよびベーシストとしてサウンドを統括したのはトニー・ヴィスコンティです。当時のヴィスコンティは、同時期にT・レックスの作品も手掛けており、本作には新興の音楽ジャンルであったグラムロックの影響が随所に感じられます。特に収録曲「ブラック・カントリー・ロック」は、しばしばマーク・ボランの音楽性をボウイ流に解釈した楽曲と評されることがあります。

アルバムの完成後、ヴィスコンティはT・レックス（マーク・ボラン）との連携をさらに深めることを選び、またT・レックスが契約したフライ・レコードと自身のプロダクションが契約を結んだこともあり、ボウイのチームを離れることになります。ヴィスコンティが去った後、「ハイプ」には『スペイス・オディティ』のセッションにも参加していたベーシストのハービー・フラワーズが新たに加わります。フラワーズはそのままプロデュースも担当し、シングル「ホリー・ホリー」が1971年1月17日にリリースされました。

リリースとジャケットの変遷

本作は、まず1970年11月4日にマーキュリー・レコードから米国で先行発売されました。この米国盤では、当時のアメリカのコミック『ヒューストン』に登場する「ヒューストン・カウボーイ」のイラストがジャケットに使用されました。しかし、描かれた建物の描写やキャラクターのセリフが、当時精神的な問題を抱えていたボウイの兄を示唆していることをボウイ自身が懸念し、ジャケットの差し替えを希望したと言われています。残念ながら米国のリリースには間に合わず、そのままのジャケットで世に出ました。

その後、1971年4月にフィリップス・レコードから英国盤が発売されます。米国盤のジャケットは問題があったため使用されず、代わりに英国の写真家キーフによって撮影された、ソファーに横たわるドレス姿のボウイの写真がジャケットに採用されました。この「ドレス姿のボウイ」という斬新なビジュアルは大きな話題を呼びましたが、この英国初盤のジャケットも短期間で廃盤となり、一時は高額で取引される貴重なアイテムとなりました。

1972年にはRCAレコードが本作の権利を引き継ぎ、新たなジャケットで再リリースしました。このRCA盤では、バレリーナのようなポーズを取るボウイの写真が使われています。さらに、ドイツでは特殊なデザインのジャケットでリリースされるなど、本作はデヴィッド・ボウイのアルバムの中でも特にジャケットの種類が多く、コレクターの間では「コレクター泣かせ」としても知られています。

CD時代に入ると、1990年にEMI（米国ではRYKO）からCD化され、再発されました。この際、未発表のテイクが4曲ボーナストラックとして追加収録されています。

近年では、リリースから50周年を迎えるにあたり、当初のタイトル案であった『メトロボリスト』として、予定されていたアートワークを用いた記念盤が2020年にリリースされました。また、英国盤リリース50周年を記念して、アルバム制作時期に録音された未発表音源を含む楽曲集『ウィドゥス・オブ・ア・サークル～円軌道の幅』が2021年に登場しています。

楽曲とその影響

本作は、その後のグラムロック時代を予感させるサウンドが特徴です。特にタイトル曲である「世界を売った男」は、時代を超えて多くのアーティストに影響を与えました。有名なカバーとしては、1982年のミッジ・ユーロによるバージョン（後にゲーム『メタルギアソリッドV ファントムペイン』で使用され再び注目された）や、1993年にMTVアンプラグドで披露されたアメリカのロックバンド、ニルヴァーナによるバージョンが挙げられます。ニルヴァーナのカバーは特に広く知られ、この楽曲が新たな世代に届くきっかけとなりました。

英音楽誌NMEは、本作からタイトル曲「世界を売った男」を17位、「ブラック・カントリー・ロック」を34位に選び、「NMEが選ぶデヴィッド・ボウイの究極の名曲1〜40位」にランクインさせています。

参加ミュージシャン

デヴィッド・ボウイ - ボーカル、ギター
ミック・ロンソン - ギター
トニー・ヴィスコンティ - ベース
ミック・ウッドマンジー - ドラムス
ラルフ・メイス - シンセサイザー

スタッフ

トニー・ヴィスコンティ - プロデューサー、リミックス・エンジニア
ケン・スコット - レコーディング・エンジニア
キース・マクミラン - 写真撮影

もう一度検索