両唇吸着音

両唇吸着音とは

両唇吸着音（りょうしんきゅうちゃくおん）は、子音の一種で、発音時に唇を使って空気を吸い込むことによって生じる独特の音です。この音は、キスをする際に出る音に似ていると言われることもあります。国際音声記号（IPA）では、[ʘ]という記号で表されます。

発音のメカニズム

両唇吸着音は、以下の要素によって特徴づけられます。

気流の起こし手: 軟口蓋気流機構による外からの吸気を利用します。つまり、口の中の空気を吸い込むことで音を作り出します。
発声: 発音時に声帯の振動を伴わない無声音です。
調音位置: 上唇と下唇を閉じることで調音を行います。これは両唇音という調音位置の特徴です。
調音方法: 口腔内の気流を操作し、二つの閉鎖によって口腔内に閉じ込められた空気を、舌の動きで気圧を下げることで吸着音を作り出します。この吸着音は、必ず軟口蓋または口蓋垂での閉鎖を伴う二重調音になります。

二重調音について

吸着音は、その原理上、必ず軟口蓋または口蓋垂での閉鎖を伴います。そのため、両唇吸着音は他の子音と組み合わせて記述されることがあります。

軟口蓋での閉鎖の場合: 例えば、[k͡ʘ]（無声軟口蓋破裂音と両唇吸着音の組み合わせ）のように表記されます。有声音の場合は[ɡ͡ʘ]、鼻音の場合は[ŋ͡ʘ]と表記されます。
口蓋垂での閉鎖の場合: [q͡ʘ]、[ɢ͡ʘ]、[ɴ͡ʘ]のように表記されます。しかし、吸着音を持つ言語の記述では、通常、タイ（連結を示す記号）は省略されます。

言語例

両唇吸着音は、5種類の吸着音の中でも特に珍しい音であり、言語音として持つ言語は非常に限られています。主な例としては、コイサン諸語の中でも南方のツウ語族に属する言語が挙げられます。

コン語（ǃXóõ）: ボツワナで話される言語で、[k͡ʘôõ]という単語で「夢」を意味します。
カム語（ǀXam）: 南アフリカ共和国でかつて話されていた言語で、現在は消滅しています。この言語も5種類の吸着音をすべて持っていました。

これらの言語は、両唇吸着音を含む5種類の吸着音全てを区別して使用することが特徴です。

まとめ

両唇吸着音は、唇を閉じて空気を吸い込むことで発音される特殊な子音であり、その発音メカニズムや分布は非常に興味深いものです。この音を持つ言語はごく一部に限られており、言語学の研究においても重要な対象となっています。

参考文献

Ladefoged, Peter (2001). A Course in Phonetics (4th ed.). Heinle & Heinle. ISBN 0155073192
Ladefoged, Peter; Maddieson, Ian (1996). The Sounds of the World's Languages. Blackwell Publishing. ISBN 9780631198154

もう一度検索