両用即応群

両用即応群（Amphibious Ready Group, ARG）

両用即応群（ARG）は、アメリカ海軍において重要な役割を担う戦闘単位の一つです。この部隊は、アメリカ海兵隊の海兵遠征部隊（MEU）と、そのMEUを目的地まで輸送し、水陸両用作戦を展開するための海軍揚陸艦隊（水陸両用戦隊、PHIBRON）を組み合わせて編成されます。

歴史的背景

ARGの概念は、第二次世界大戦後に形成されました。1946年以降、アメリカ海軍の第6艦隊は地中海への常時展開を開始しました。これは、当時のソビエト連邦の地中海への影響力拡大に対する牽制という意味合いも含まれており、その任務遂行のためには水陸両用作戦能力の必要性が認識されていました。第二次世界大戦を通じて、海軍と海兵隊の緊密な協力関係が築かれていたことも、水陸両用部隊の配備を後押ししました。

1948年からは、地中海に水陸両用戦部隊が配備され始めます。当初は、大西洋艦隊海兵軍の大隊が戦闘艦に便乗する形でしたが、1955年までにはその兵力は増強され、約1,700名規模となりました。同時に、完全に編成された大隊上陸チーム（BLT）と呼ばれる部隊を輸送し、上陸させることが可能な揚陸艦も配備されるようになりました。この地中海に展開するBLTは、第2海兵師団から約6ヶ月交代で派遣される体制でした。さらに、1958年には第7艦隊（太平洋）にも同様のBLTが配備され、こちらは第3海兵師団から派遣されることになりました。

1960年代に入ると、このように洋上に展開するBLTは「特別上陸部隊（Special Landing Force, SLF）」と呼ばれるようになります。そして、このSLFを発展させ、より組織化された戦闘単位として編成されたのが、両用即応群（ARG）なのです。

編制

ARGは、海兵隊の戦闘部隊である海兵遠征部隊（MEU）と、海軍の揚陸艦からなる水陸両用戦隊（PHIBRON）によって構成されます。

指揮系統においては、PHIBRON指揮官（海軍大佐）とMEU指揮官（海兵隊大佐）は基本的に同格とされており、「水陸両用作戦に関する統合ドクトリン」に基づき、上級指揮官からの特別な指示がない限り、両者で協議して作戦を指揮します。

MEUは、約2,300名規模の海兵空地任務部隊（MAGTF）であり、以下の要素から構成されます。

地上戦闘部隊（Ground Combat Element, GCE）: 主に1個歩兵大隊を基幹とし、これに砲兵や軽装甲偵察部隊などが編入された「大隊上陸チーム（BLT）」です。
航空戦闘部隊（Aviation Combat Element, ACE）: MEUの部隊や物資の輸送、近接航空支援などを担う航空機部隊です。
* 後方支援部隊（Logistics Combat Element, LCE）: 地上戦闘部隊や航空戦闘部隊の維持・支援を行う部隊です。

PHIBRONを構成する揚陸艦隊の編成は時代と共に変化しました。1991年の湾岸戦争時には、1隻のヘリコプター揚陸艦（LPH）、ドック型輸送揚陸艦（LPD）、ドック型揚陸艦（LSD）、貨物揚陸艦（LKA）、戦車揚陸艦（LST）といった多様な艦艇で構成されていました。しかしその後、揚陸艦一隻あたりの能力向上と部隊の省力化を目指し、強襲揚陸艦（LHAまたはLHD）、ドック型輸送揚陸艦（LPD）、そしてドック型揚陸艦（LSD）がそれぞれ1隻ずつ、計3隻を中核とする体制へと見直されました。

運用と発展

1970年代には、アメリカ統合参謀本部（JCS）の方針として、平時におけるARGの展開体制が定められていました。具体的には、西太平洋に2個、地中海に1個、カリブ海に1個のARGを展開することを目指していましたが、当時の強襲揚陸艦やヘリコプターの不足により、一部のARGはMEUではなくBLTを乗艦させ、部隊固有の航空戦力を欠く場合もありました。

冷戦が終結した後も、太平洋と地中海において、最低1個ずつのARGを常に洋上待機させる体制は維持されました。太平洋においては、常時洋上待機するARG（ARG-A）に加え、日本の佐世保基地を拠点とする艦艇と第31海兵遠征部隊によって編成されるARG-Bが存在し、こちらは主に予備的な役割や訓練、比較的小規模な任務に対応していました。

しかし、ARGは揚陸艦と海兵隊部隊のみで構成されるため、上陸作戦における効果的な火力支援や、敵艦艇などに対する対水上打撃能力が限定的であるという課題がありました。必要に応じて空母打撃群（CVBG）からの援護を受けることが想定されていましたが、冷戦終結後に低強度紛争やテロ対策など、戦争以外の多様な軍事作戦が増加したことで、ARG単独、あるいは他の戦闘艦を随伴させる運用の方が効率的であるという考え方が生まれてきました。

この運用思想の変化に対応するため、従来のARGを基礎としつつ、さらに水上戦闘艦3隻からなる水上戦闘群（SAG）や攻撃型原子力潜水艦（SSN）などを加えた、より多機能な戦闘単位である遠征打撃群（ESG）の編制が採択されました。ESGは2003年から本格的な配備が始まり、ARGの概念は発展的な形で受け継がれています。

ARGは、アメリカ海軍と海兵隊が一体となって遂行する水陸両用作戦の要として、その歴史を通じてアメリカの即応展開能力に貢献し、現代の遠征打撃群の基礎を築いた重要な部隊編成です。

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