中国の家具

中国の家具：歴史と文化

はじめに

中国の家具は、その歴史と芸術性において高い評価を受けています。中でも、明清時代（1368～1912年）の家具は、中国美術の重要な分野として広く知られています。本稿では、中国家具の歴史と特徴、特に明清時代の明式家具について詳細に解説します。

明清以前の家具

中国最古の文献である『論語』には、すでに「席」（むしろやござ、座布団のようなもの）が登場します。後漢時代の辞書『釈名』には、席のほか「牀」（しょう、ベッドと長イスを兼ねる低足の台座）、「榻」（とう、牀に似たもの）、「几」（き、低足のテーブルまたは肘置き）、「屏風」など、様々な家具の存在が記されています。考古学的にも、戦国時代の楚の大きな牀や、前漢時代の屏風などが出土しており、当時の家具の形状や使用状況を知る手がかりとなっています。絵画や副葬品の明器からも、家具の存在が確認できます。

イスの出現

高足の椅子やテーブルが一般的に用いられるようになったのは、唐代からです。それ以前は、牀などに席を敷いて、正座や膝立ちなどの姿勢で生活していました。後漢末期に西域から伝来した胡牀（こしょう、折り畳み椅子）が、唐代までに凳（とう）や椅（き）へと発展し、高足のテーブルである卓案（たくあん）なども一般化していきました。これらの座具や座法は、儒教の礼儀作法とも深く関わっており、古くから多くの文献で考察されています。

明清時代の家具：最盛期

明清時代は、中国家具の最盛期とされています。特に明代から清代初期の家具は「明式家具」と呼ばれ、高い評価を受けています。明式家具は、鉄刀木や黄花梨などの硬い木材を材料とし、釘を使わずほぞ継ぎで精巧に組み立てられています。装飾を極力廃し、素材の美しさやシンプルなデザインが特徴です。一方、清の中期以降の「清式家具」は、明式家具をベースにしながらも、より華やかな装飾やマホガニーの使用が目立つようになります。

明式家具の生産地は、北京、蘇州、徽州、揚州、広州など多岐に渡り、商品経済の発展、東南アジア産木材の輸入、園林建築の流行などがその背景にあります。明式家具は、文人の書斎を演出する重要な役割も担っていました。『金瓶梅』や『長物志』などの古典文学作品にも明式家具が登場し、その人気の高さがうかがえます。現代では、上海博物館など多くの博物館に明清時代の家具が収蔵されています。

明清時代の代表的な家具としては、榻、羅漢床、圈椅、太師椅、天然几、屏風、架格（たな）、炕卓（オンドル上のテーブル）などがあります。

近現代の家具

清の中期から清末民初にかけて、中国の家具は西洋の影響を受け、徐々に変化していきました。民国期の北京では、家具デザイナーのグスタフ・エッケが中国家具を収集し、その研究成果を書籍として発表し、北欧家具のデザインにも影響を与えました。現代中国では、欧派家居などの大企業が家具市場をリードしており、IKEAやニトリなどの海外企業も進出しています。一方、伝統的な明式家具を現代風にアレンジした作品を手掛けるデザイナーもいます。

日本への伝来

中国の文化とともに、中国の家具も日本に伝来しました。正倉院の宝物の中には、聖武天皇の御床（みとこ）も含まれています。しかし、時間の経過とともに、その名称や意味合いが変化していきました。

参考文献

王世襄、朱家溍、西村康彦『中国美術全集 11 工芸編 竹彫・木彫/象牙・犀角/明清家具』京都書院、1996年
柿沼陽平『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』中央公論新社、2021年
* その他多数の文献、論文

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