中国荒政史

中国の荒政史：災害と社会福祉政策の変遷

中国の歴史において、地震、旱魃、洪水、蝗害、疫病といった自然災害は、社会不安の大きな要因でした。そのため、歴代王朝は災害への対応として、様々な救済政策を展開してきました。この政策、すなわち災害への対応と社会福祉政策を包括的に指す概念が「荒政」です。本稿では、古代から清朝までの荒政の歴史を、具体的な政策や制度、そしてそれらが及ぼした影響に焦点を当てて解説します。

古代から隋唐時代

中国における災害救済の原形は、西周時代に確立されました。当時の政策は、「散利（財を分かつ）」「薄征（遠征を控える）」など、12種類にも及びました。これらは、経済的支援から刑罰の軽減、儀式の簡素化まで、多角的なアプローチによる災害対策を示しています。先秦時代には、富裕層から穀物を徴収して貧困層に分配する「勧分」制度も登場しました。漢代には、穀物価格の安定化を目的とした常平倉が設立され、南北朝時代には貧民や孤児のための施設も建設されました。隋代には、災害に備えた備蓄倉庫である義倉が制度化され、天然痘患者のための隔離施設も設立されました。唐代には、仏教の慈悲思想の影響を受け、貧困者や病人を収容する施設である病坊や悲田坊が発展しました。悲田坊は、日本の悲田院のモデルにもなっています。

宋代の荒政と医療の発展

宋代は、荒政が特に充実した時代でした。史書にも「宋朝の治世は、ひたすら徳目である仁を厚くするものであった」と記されているように、救貧や病者への配慮は、前代をはるかに凌駕していました。常平倉は引き続き運営され、王安石の新法である青苗法では、備蓄米の有効利用が図られました。宋代には、福田院、居養院、安済坊、養済院など、様々な救護施設が整備されました。共同埋葬場である漏沢園も設立され、貧しい人々の埋葬を支援しました。医療技術の発展にも力を入れた宋朝では、医官院で研究が進み、『和剤局方』などの薬物処方集が編纂されました。これは、日本の薬局方にも影響を与えたと言われています。南宋の董煟は、『救荒活民書』で過去の救荒政策をまとめ、新たな政策を提唱しました。朱熹は五夫社倉を創設し、その規範となる社倉事目を制定しました。

元明清時代の荒政

元代には、モンゴル時代の医療施設を発展させた広済提挙司や恵民局、安楽堂などが設置されました。しかし、元代は自然災害が多く、その頻発が紅巾の乱を引き起こし、元朝の滅亡の一因となりました。明代には、貧農出身の太祖朱元璋が、歴代王朝の中でも最も荒政を重視し、災害対応に力を入れた皇帝として知られています。恵民薬局や養済院などの施設が整備されましたが、明中期以降は、役人の多忙化や対応のずさんさが問題となり、災害時の民衆の苦境は深刻化しました。一方、民間による福祉事業である同善会なども発展しました。清代には、乾隆帝が災害救援に熱心に取り組み、常平倉の備蓄量は大幅に増加しました。寧夏府大地震では、適切な対応によって死傷者の拡大を防ぎました。

まとめ

中国の荒政は、時代と共に進化を遂げ、その内容は経済的支援から医療、福祉施設の整備、災害への備えまで多岐に渡りました。しかし、制度の整備だけでは解決できない問題も多く存在し、官僚機構の機能不全や災害の頻発によって、民衆の苦境が解消されないケースもありました。歴代王朝が、自然災害という大きな課題にどのように取り組み、社会福祉政策を発展させてきたのかを理解することは、現代社会を考える上でも重要な示唆を与えてくれるでしょう。 中国の荒政史は、災害と人々の暮らし、そして政治と社会の関わりを深く理解するための貴重な歴史的資料です。 それぞれの時代の政治的、経済的、社会的な状況を踏まえることで、より深く理解を深めることができます。

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