真木保臣

真木保臣：尊皇攘夷の志士、激動の幕末を駆け抜けた生涯

真木保臣（まきやすおみ、1813年4月7日-1864年8月22日）は、江戸時代後期の久留米藩士にして、尊皇攘夷運動を牽引した中心人物の一人です。筑後国久留米（現在の福岡県久留米市）の水天宮の神職の家に生まれた彼は、幼少期から国学や和歌を学び、後に水戸学に傾倒しました。

水戸学への傾倒と尊王思想の確立

文政6年（1823年）、真木は家業を継ぎ神職となります。天保3年（1832年）には和泉守に任じられ、弘化元年（1844年）には水戸藩に遊学。会沢正志斎に師事し、水戸学を深く学ぶ中で尊王思想を確固たるものにしました。関東遊学中は、水戸において小川修理や日下部伊三治らと国事について議論を交わし、江戸では安井息軒、塩谷宕陰、橘守部ら名士と交流を深めました。弘化4年（1847年）には孝明天皇の即位の大礼を拝観し、尊王の志をさらに強くしました。

藩政改革への挑戦と幽囚

嘉永5年（1852年）、真木は同志と共に久留米藩主・有馬慶頼に藩政改革の建白書を提出しますが、却って罪を被り、弟である大鳥居理兵衛（水田天満宮の養子）の下で幽囚生活を送ることになります。この幽囚生活は10年近くに及びましたが、彼の尊王の志は揺らぐことはありませんでした。この間の著作『何傷録』には、後に新渡戸稲造の『武士道』にも引用された名言が残されています。幽囚中も、筑前福岡藩士の平野国臣や清河八郎らが彼を訪ねており、その影響力は衰えることはありませんでした。

尊皇攘夷運動への本格参入と長州藩への接近

文久2年（1862年）、真木は幽囚から解放されると、大久保利通らと薩摩藩の島津久光を擁立しての上洛を計画、京で活動を始めます。寺田屋騒動で一時幽閉された後、長州藩に接近し、長州藩主に建言を行いました。その内容は、攘夷においては全国一丸となって天皇の親政の下で取り組むべきであるというものでした。この建言の裏には、天皇の親征による皇政復古、そして対外的な武力の充実という真木の壮大な構想がありました。しかし、この考えに基づく御親征促進運動における偽勅の乱発は孝明天皇の怒りを買い、八月十八日の政変へと繋がります。

禁門の変と最期

八月十八日の政変後、真木は七卿落と共に長州藩へ逃れました。そして、元治元年（1864年）7月19日、禁門の変（蛤御門の変）において長州藩の志士らと共に戦い、敗走。天王山で17名と共に籠城し、会津藩と新選組の追撃を受け、壮絶な最期を遂げました。享年52歳。

真木の思想と評価

真木は楠木正成を崇拝し、「今楠公」と呼ばれていました。彼の尊王攘夷の思想は、後の神社創建や招魂社の設立に大きな影響を与えました。しかし一方で、西洋事情への理解が乏しく、観念的な攘夷論に陥っていたという側面もあります。彼の掲げた「倒幕、王政復古」は、近代国家建設というよりは、支配者の交代という側面が強かったものの、明治維新の大義名分として利用されました。死後、皇国史観に基づいて再評価されることになります。久留米藩では、真木の思想を受け継いだ攘夷派藩士が、明治維新後の久留米藩難事件で処罰されています。

真木保臣は、激動の幕末期に理想を貫き、命を懸けて戦い抜いた尊皇攘夷の志士でした。彼の生涯は、日本の近代化への道のりを考える上で、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

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