中村富十郎 (4代目)

四代目 中村富十郎（1908年6月11日 - 1960年10月17日）は、関西歌舞伎を代表する役者の一人です。本名を渡辺亀蔵といい、屋号は天王寺屋、定紋は鷹の羽八ツ矢車を用いていました。俳名としては亀鶴を名乗りました。

生い立ちと初舞台

二代目坂東彦十郎の三男として東京に生まれた富十郎は、幼少の頃から歌舞伎の世界に足を踏み入れます。1911年、名古屋末広座で『義経千本桜・すし屋』の六代君役で本名で初舞台を踏みました。その後、坂東亀の子、坂東一鶴と改名し、1930年には東京劇場で三代目坂東鶴之助を襲名しました。この頃、四代目片岡我當らと共に新宿第一劇場で青年歌舞伎を結成し、若手歌舞伎役者として注目を集めました。

関西歌舞伎への転身と四代目富十郎襲名

その後、富十郎は関西歌舞伎へと活動の場を移します。1943年、大阪歌舞伎座で四代目中村富十郎を襲名しました。しかし、東京出身の役者が大阪ゆかりの「富十郎」という大名跡を継ぐことは、当時大きな波紋を呼びました。三代目中村梅玉が「鶴之助が富十郎を襲名するなら、自分は何を継げば良いのか」と憤慨したという逸話も残っています。

立女形としての活躍と晩年

戦後の関西歌舞伎において、富十郎は立女形として、三代目市川壽海や三代目阪東壽三郎らと共に舞台を盛り上げました。また、矢車座を設立して新作歌舞伎の上演にも意欲的に取り組みました。しかし、関西歌舞伎全体の低迷という状況の中で、その才能を十分に発揮することができず、巡業先の広島県福山市で急逝しました。

芸風と当たり役

富十郎の芸風は、ねばり強く近代的なものでした。『心中宵庚申』のお千代、『箕輪の心中』の綾衣、『少将滋幹の母』の北の方、『番町皿屋敷』のお菊など、多くの当たり役を持ち、観客を魅了しました。特に女形の演技には定評があり、その美しさとしなやかな動きは多くの人々を惹きつけました。

家族と私生活

富十郎は二度の結婚を経験しています。最初の妻は、十五代目市村羽左衛門の私生児であり舞踊家の初代吾妻徳穂でした。駆け落ち同然で結婚し、二人の間には長男の五代目中村富十郎と次男が誕生しましたが、その後徳穂が内弟子と駆け落ちしたため離婚しました。後妻は、初代中村鴈治郎の末娘で女優の中村芳子で、彼女との間には初代中村亀鶴を儲けています。

まとめ

四代目中村富十郎は、その短い生涯の中で、歌舞伎役者として数々の功績を残しました。東京から関西へと活躍の場を移し、立女形としてその才能を発揮しましたが、関西歌舞伎の低迷という時代背景の中で不遇のまま亡くなりました。しかし、彼の残した芸は今もなお多くの人々に語り継がれています。

関連情報

東京都出身の人物一覧
中村 富十郎 (四代目) - 歌舞伎俳優名鑑 想い出の名優篇

もう一度検索