中村歌右衛門 (3代目)

三代目 中村歌右衛門：江戸歌舞伎を彩った名優の生涯

三代目中村歌右衛門（1778年-1838年）は、江戸時代を代表する歌舞伎役者の一人です。その華麗な芸と幅広い役柄は、歌舞伎史に大きな足跡を残しました。

初代中村歌右衛門を父に持ち、大坂で生まれた歌右衛門は、10歳の時、加賀屋福之助として初舞台を踏みます。幼少期から才能を開花させ、京都、大坂と活躍の場を広げました。父が亡くなった後、わずか12歳で家督を継ぎ、三代目中村歌右衛門を襲名。若くして名跡を継いだ彼の重圧と、それをものともしない才能は周囲を驚かせたことでしょう。

若手時代から持ち前の才能で頭角を現し、二代目嵐吉三郎と人気を二分する存在となりました。その後、江戸に進出し、中村座で大人気を博します。さらに、名高い踊り手であった三代目坂東三津五郎と競演を重ねるなど、常に第一線で活躍し続けました。

立役として活躍する傍ら、文化15年（1818年）には一時的に「中村芝翫」を名乗る時期もありましたが、翌年には再び「歌右衛門」に戻し、その後も立役として第一線で活躍を続けます。文政8年（1825年）には一度引退を表明しましたが、すぐに舞台へ復帰。その高い人気は衰えることなく、評判記にも「無類」や「古今無類総芸頭」と絶賛する記述が残されています。

しかし、晩年は病に悩まされ、天保7年（1836年）には門下の二代目中村芝翫に家督を譲り、自身は「中村玉助」と改名しました。そして、2年後、大坂で61年の生涯を閉じました。

歌右衛門の芸の幅は広く、時代物、世話物を問わず、道外方、立役、若衆方、実事、女形とあらゆる役柄をこなす万能型でした。特に、『一谷嫩軍記』の熊谷直実、『義経千本桜』の源九郎狐、『仮名手本忠臣蔵』の定九郎、『楼門五三桐』の石川五右衛門、『隅田川続俤』の法界坊、『五大力恋緘』の弥助などは彼の代表的な当り役として知られています。その芸風は「梅玉型」と呼ばれ、後世の役者にも大きな影響を与えました。

さらに、所作事にも秀でており、三代目三津五郎と競演した変化舞踊は、現在でも伝わる『越後獅子』など数々の作品を生み出しました。また、狂言作者としても活躍し、「金澤龍玉」の名で『雁のたより』などの作品を残しています。

三代目中村歌右衛門は、卓越した演技力と幅広い芸域、そして創作活動までこなす稀有な才能を持つ役者でした。彼の芸は、後世の歌舞伎役者に多大な影響を与え、現在もなお、人々の記憶に鮮やかに刻まれています。その功績は、歌舞伎史において計り知れないものと言えるでしょう。

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