中村歌右衛門 (5代目)

五代目中村歌右衛門：歌舞伎界の至宝、その生涯と業績

五代目中村歌右衛門（1866年2月14日-1940年9月12日）は、明治から昭和初期にかけて活躍した、日本を代表する歌舞伎役者です。成駒屋を屋号とし、祇園守を定紋とする彼は、類まれな美貌と高い芸力で観衆を魅了し、「東西随一の女形」と称賛されました。

華麗なるデビューと数々の名役

江戸本所生まれの彼は、四代目中村芝翫の養子となり、初代中村兒太郎として初舞台を踏みます。その後、四代目中村福助を襲名し、主要劇場で経験を積み重ねました。若手時代には、九代目市川團十郎の相手役を務めるなど、早くから注目を集めていました。明治20年には、井上馨邸で行われた天覧歌舞伎に出演し、歌舞伎界の未来を担う存在として確固たる地位を築きました。

五代目中村芝翫を襲名後、歌舞伎座と東京座で活躍。坪内逍遥作『桐一葉』の淀君役は大評判となり、彼の代表作の一つとなりました。そして、五代目中村歌右衛門を襲名した彼は、十五代目市村羽左衛門、十一代目片岡仁左衛門と共に「三衛門」と呼ばれ、歌舞伎界の中核を担いました。歌舞伎座幹部技芸委員長を務めるなど、歌舞伎の発展にも大きく貢献しています。

晩年とレガシー

晩年は、長年苦しんだ鉛中毒の悪化により、身体の自由が利かなくなりましたが、巧みな科白回しでそれを補い、舞台に立ち続けました。昭和6年には、鴈治郎との共演による『山門』の五右衛門役が話題を呼びました。また、「三代目中村歌右衛門百年祭」では、『日招きの清盛』で中心的な役割を演じ、その圧倒的な存在感は伝説として語り継がれています。

得意とした役柄は多岐に渡り、時代物では『本朝廿四孝』の八重垣姫、『鎌倉三代記』の時姫、『祇園祭礼信仰記』の雪姫、『伽羅先代萩』の政岡など、世話物では『助六』の揚巻、『籠釣瓶』の八つ橋、『新版歌祭文』のお光など、数々の名役を演じました。中でも『桐一葉』の淀君は、彼の生涯の代表作であり、「淀君集」としてまとめられています。立役でも、『勧進帳』の義経、『寿曽我対面』の工藤、『暫』の武蔵坊弁慶など、幅広い役柄を演じきりました。

彼の芸風は、時代を超えて後世の役者たちに多大な影響を与え、現在でも多くの歌舞伎役者にとって手本となっています。その功績は、歌舞伎界のみならず、日本の伝統芸能史に燦然と輝くものと言えるでしょう。

壮麗な私生活と没後

私生活では、東京千駄ヶ谷に広大な屋敷を構え、多くの使用人を雇っていたと伝えられています。その豪奢な生活ぶりも、歌舞伎界の重鎮としての地位を象徴するものでした。しかし、後継者である五代目中村福助を亡くした悲しみと、鉛中毒の悪化により、1939年に舞台を引退。翌年、東京都芝区高輪の自宅で亡くなりました。

五代目中村歌右衛門は、類まれな才能と努力、そして歌舞伎への深い愛情で、日本の伝統芸能に大きな足跡を残しました。彼の名は、これからも歌舞伎史に輝く星として、永遠に語り継がれていくことでしょう。

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