中村福助 (9代目)

九代目中村福助

歌舞伎役者であり俳優でもある九代目中村福助（くだいめ なかむら ふくすけ）は、1960年10月29日に生まれました。本名は中村栄一（なかむら えいいち）といい、歌舞伎界における名門、成駒屋の立女形として知られています。屋号は成駒屋、定紋は祇園守、替紋は裏梅を用いています。父は人間国宝であった七代目中村芝翫、弟は八代目中村芝翫、そして長男には六代目中村児太郎という、歌舞伎役者の血筋に深く根差した家系に育ちました。青山学院高等部を中退後、この世界に進んでいます。所属事務所はアーロム、公称身長は172cm、血液型はO型です。

芸の道の歩み

福助丈が歌舞伎の舞台に初めて立ったのは1967年4月のことでした。父である七代目中村芝翫の襲名披露公演として歌舞伎座で行われた『野崎村』に出演し、庄屋の息子である栄三役などを五代目中村児太郎として務めました。この初舞台が、後に大看板となる役者人生の出発点となります。

長年の舞台経験を積み、1981年には名題適任証を取得。役者としての資格を認められます。1983年には芸術選奨新人賞を受賞するなど、その才能は早くから評価されました。同年、重要無形文化財の総合認定を受け、伝統歌舞伎保存会の会員となり、日本の伝統芸能を守り伝える立場にも加わりました。

九代目中村福助を襲名したのは1992年4月のこと。歌舞伎座での大歌舞伎において、『金閣寺』の雪姫役と、女方舞踊の大曲として知られる『娘道成寺』の白拍子花子役で披露されました。2005年には、長年の舞台活動と功績が称えられ、日本藝術院賞を受賞しています。

父・七代目芝翫から連なる成駒屋の女方芸は、福助丈によって現代に引き継がれています。古典歌舞伎における女方の大役を数多く勤める一方で、義兄の十八代目中村勘三郎が発案し、創設した「コクーン歌舞伎」にも弟である三代目橋之助（当時）と共に参加するなど、新しい形の歌舞伎にも積極的に挑戦し、幅広い活躍を見せました。

2011年10月には、父の死去に伴い、日本舞踊中村流の宗家を継承しました。歌舞伎のみならず、舞踊の分野においてもその才能を発揮しています。

病との闘い、そして復帰

2013年9月、歌舞伎界の大名跡である中村歌右衛門を七代目として襲名すると同時に、長男の児太郎氏に十代目福助を継承させることが発表され、大きな注目を集めました。しかし、同年11月の公演中に体調を崩し、やむなく途中降板。その後、脳内出血による筋力低下のため、長期にわたり休業することが公表されました。この病気のため、予定されていた歌右衛門と福助の同時襲名は保留となっています。

長期にわたる療養とリハビリを経て、福助丈は再び舞台に戻ることを諦めませんでした。そして、2018年9月2日に幕を開けた「秀山祭九月大歌舞伎」にて、およそ4年10か月ぶりに歌舞伎の舞台へ復帰を果たしました。これは、多くの歌舞伎ファンや関係者に大きな感動を与えました。

人物像と多彩な魅力

プライベートでは、妻の香璃氏と1992年6月27日に結婚。父と同じ東京會舘で挙式しました。翌年には長男の優太氏（現・六代目児太郎）が、1996年には長女の佳奈氏が誕生し、一男一女の父となりました。長男の児太郎氏は歌舞伎役者の道を歩んでいますが、長女の佳奈氏も、2004年に歌舞伎座での九月大歌舞伎で、祖父である七代目芝翫と共演し、由留木息女の調姫役を務めた経験があります。

福助丈は多趣味としても知られています。2006年に甥の二代目中村七之助氏がテレビ番組で明かしたところによれば、ウルトラマンシリーズの熱心なファンであるといいます。また、熱狂的な阪神タイガースファンでもあり、タイガースが優勝した際には、役者仲間へ「とらや」の羊羹を配るほどの熱狂ぶりを見せました。楽屋のれんには、縦縞に虎のロゴ、そして阪神タイガースの応援歌である「六甲おろし」の歌詞が刺繍された特注品を使用していた時期もあるほどです。少年時代が読売巨人軍の全盛期（V9時代）だったことから、強いチームに対抗するタイガースへの判官贔屓の気持ちからファンになったと語っています。

さらに、宝塚歌劇団のファンでもあり、タカラジェンヌたちとも親しい交流があるそうです。1989年の俳優祭では、宝塚の代表作『ベルサイユのばら』のパロディで念願だったオスカル役を演じ、その際には当時オスカル役を務めていた涼風真世氏からかつらを借りて臨みました。2004年の俳優祭でも再びオスカルを演じており、この時は真矢みき氏から演技指導を受けたといいます。

若い頃には、週刊誌で報じられるような遊び人としての一面もあったとされていますが、それが女形としての深い芸を培う糧となったとも言われています。

主な出演

歌舞伎では、五代目中村児太郎としての初舞台をはじめ、コクーン歌舞伎やスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』、そして得意とする『籠釣瓶花街醉醒』や『京鹿子娘道成寺』など、様々な作品に出演しています。

テレビドラマでは、火曜サスペンス劇場「歌舞伎役者・中村歌留多」（日本テレビ、2005年）で主役を務めたほか、大河ドラマ「新選組！」（NHK、2004年）で孝明天皇役、スペシャルドラマ「李香蘭」（テレビ東京、2007年）で長谷川一夫役を演じるなど、俳優としても活動しています。また、「題名のない音楽会21」など、音楽番組にも出演しました。

映画では、『シベリア超特急』シリーズや『娘道成寺 蛇炎の恋』に出演しています。

病を乗り越え、再び舞台に立つ九代目中村福助は、成駒屋に伝わる伝統の女方芸を深めながら、歌舞伎の可能性を広げる活動にも取り組んでいます。その存在は、多くの観客にとって大きな希望と感動を与えています。

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