中田弘二

中田弘二は、明治42年（1909年）9月14日、長崎県長崎市に生まれました。本名を中田博二といいます。彼の父、猪十郎は貿易業や土木事業を営む傍ら、国家主義者である頭山満の結成した玄洋社に参加し、辛亥革命における孫文の活動も支援するなど、行動的な人物でした。このような家庭環境は、後の弘二の人生にも影響を与えたかもしれません。

長崎の朝日尋常小学校から県立瓊浦中学に進学した弘二は、昭和5年（1930年）に日本大学専門部芸術科を卒業しました。大学卒業後、幹部候補生として陸軍野戦銃砲第6連隊に入隊し、軍務に就きました。昭和7年（1932年）10月に除隊すると、その才能を見出され、日活太秦撮影所に入社します。

映画俳優としてのキャリアは順調に始まりました。昭和8年（1933年）2月公開の熊谷久虎監督作品『彼女の道』で映画デビュー。翌昭和9年（1934年）には日活多摩川撮影所に活躍の場を移し、主に熊谷久虎や牛原虚彦といった監督の作品で主演俳優として人気を博しました。

しかし、昭和12年（1937年）7月、日中戦争の勃発に伴い応召します。約3年間にわたり北支戦線を転戦しましたが、軍曹として昭和14年（1939年）に帰還し、日活に復帰しました。昭和15年（1940年）の清瀬英次郎監督作品『大地に咲く』が復帰作となります。第二次世界大戦が激化するにつれて、彼の出演作は戦記映画が多くなり、昭和17年（1942年）公開の田口哲監督作品『将軍と参謀と兵』では、後方連絡の途中で壮烈な最期を遂げる参謀役を熱演し、その演技力を見せました。同年、日活の撮影所が大映に統合された後も主演俳優として活動を続けましたが、昭和18年（1943年）の沼波功雄監督作品『結婚命令』を最後に出演機会が減り、翌昭和19年（1944年）に再び応召され、関東軍野戦自動車廠の部隊に曹長として入隊しました。昭和20年（1945年）の終戦後、帰国する日本人たちの警護隊員として祖国へ戻りました。

戦後、中田弘二は俳優の道を選ばず、故郷である長崎へ戻りました。昭和21年（1946年）、自身の土木建築会社を設立し、実業家としての道を歩み始めます。翌昭和22年（1947年）4月には、第1回統一地方選挙において長崎県議会議員に立候補し、当選。県議会議員として1期を務め、政治の世界でも活動しました。その後、昭和27年（1952年）10月の衆議院議員総選挙にも挑戦しましたが、惜しくも次点で落選しています。

政治の世界から再び実業界へ戻った中田は、昭和28年（1953年）、かつて主演作を撮った熊谷久虎とともに上京し、芸研プロダクションを設立しました。この会社で専務を務めた後、昭和31年（1956年）には社長に就任。主にコマーシャルフィルム（CF）や記録映画の製作を手がけ、昭和52年（1977年）末に辞任するまで、長きにわたり映像製作の分野で辣腕を振るいました。

彼の晩年については、昭和54年（1979年）に刊行された『日本映画俳優全集 男優篇』に、当時の連絡先が東京都目黒区に示されており、この時点では存命であったことが確認されています。しかしながら、それ以降の確かな消息は不明となっています。

家族関係においては、俳優の中田博久は彼の息子にあたります。また、俳優で映画監督の中田圭は孫、元女優の新井茂子は息子博久の妻、すなわち弘二の義理の娘です。さらに、人気漫画家の柴田亜美は、中田弘二の兄の孫、すなわち弘二の大姪にあたるなど、親族には様々な分野で活躍する人物がいることも特筆されます。

中田弘二は、激動の時代を生きた人物であり、俳優として銀幕を飾り、兵役を二度経験。戦後は実業家、政治家として郷里に貢献し、晩年には映像製作会社を率いるなど、多岐にわたるキャリアを積みました。その波乱に富んだ生涯は、昭和という時代の変遷を映し出していると言えるでしょう。

主な出演作品（一部）

彼女の道
大学の歌
炬火 田園篇
忠臣蔵 刃傷篇 復讐篇
召集令
海国大日本
大菩薩峠
蒼氓
大地に咲く
歴史　第一部　動乱戊辰
風の又三郎
伊達大評定
海の母
将軍と参謀と兵
シンガポール總攻撃
マライの虎
我が家の風
結婚命令

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