中華民国旅券

中華民国旅券は、中華民国（台湾）が自国民および海外華僑に対して発給する旅券です。台湾のパスポートとして広く認識されており、国際的な移動に不可欠な役割を果たしています。

取得要件

中華民国は、1912年に建国された国家で、1945年に台湾を自国領に編入しました。しかし、1949年の国共内戦の結果、実効統治領域は台湾地区のみとなり、中国大陸は中華人民共和国が統治しています。中華民国憲法は中華人民共和国の存在を認めておらず、中華民国が「中国を代表する唯一の正統な政府」とされています。

中華民国旅券の取得資格は、主に以下の通りです。

台湾地区に居住し、中華民国戸籍に登録されている国民: これが基本となります。
一部の海外華僑: 中華民国旅券を持つ両親から海外で生まれた者、中国大陸や香港、マカオで生まれ海外居住権を持つ者などが含まれます。

重要な点として、中華民国旅券の所持が必ずしも中華民国戸籍を持つ公民であるとは限りません。また、台湾地区の永住権を保有しているとも限りません。特に海外華僑の場合、特定の条件を満たす必要があります。

2002年の旅券条例施行細則改正以前は、華僑身分証明書を持つ華人は、居住歴に関わらず中華民国国籍と旅券の交付資格がありました。しかし、改正後は、出生証明書や父母のいずれかが中華民国国籍を持つことを証明する書類が求められるようになりました。また、中華人民共和国旅券を持つ者は華僑身分証明書を取得できません。

中華民国旅券は、台湾地区の居住権を持つ者に自動的に交付されるものではありません。台湾地区の戸籍を持つ者のみが、台湾での出入国管理から除外されます。それ以外の所持者は、台湾到着時に上陸査証が必要となるか、入国を拒否される場合があります。

様式と特徴

普通旅券の表紙は深緑色で、中華民国の国章と「中華民国」「旅券」の文字が中国語と英語で印刷されています。2003年以降、表紙には英文で「TAIWAN」の表記が追加されました。これは、中華人民共和国旅券との混同を避けるためです。

2020年には、表紙の「REPUBLIC OF CHINA」の表記を削除する議論もなされましたが、中国政府の反発を懸念し、結論は出ていません。しかし、2021年には「TAIWAN」の表記を大きくし、「REPUBLIC OF CHINA」を小さく表記する新デザインが採用されました。

旅券の最初のページには、中国語と英語で旅券の取り扱いに関する要請文が印刷されています。また、以前は省籍欄がありましたが、現在は削除されています。出生地欄は、大陸地区または台湾地区のどちらで出生したかを記載します。

旅券の発行国コードは、ISO 3166-1で台湾を示す「TWN」です。

有効期限と手数料

中華民国旅券の有効期限は通常10年ですが、14歳以下は5年、兵役義務のある男性は制限される場合があります。2019年4月29日以降、徴兵制度で未就役の男性は10年間に制限されています。

申請手数料は、10年有効の旅券が1,300台湾ドル、有効期限が制限された旅券が900台湾ドルです。旅券の製造費用は1,361台湾ドルです。

渡航に関する情報

中華民国旅券は、多くの国で渡航文書として認められていますが、国家承認している国は限られています。

アメリカ合衆国

2012年11月1日より、ビザ免除プログラムの対象となり、短期商用・観光目的での渡航が可能になりました。

シェンゲン圏とカナダ

2011年1月11日より、シェンゲン圏への査証免除での渡航が可能になりました。カナダへの査証免除渡航は2010年11月22日から認められています。

香港とマカオ

香港への渡航には、中華民国旅券に加えて査証が必要です。一方、台湾居民来往大陸通行証を持つ者は、査証免除で入境できます。マカオは、中華民国旅券を有効な渡航文書として扱っていますが、旅券に直接押印せず、出入国カードで管理しています。

その他の国々

マレーシアは、中華民国旅券に対して別紙査証を発給しています。ジョージアへの渡航は、招待がない限りビザ取得が非常に困難です。

大陸地区（中国本土）への渡航

台湾人が大陸地区へ渡航するには、中華民国旅券に加えて、台湾居民来往大陸通行証または中華人民共和国旅行証が必要です。大陸地区の入管当局は、中華民国旅券を認めていません。

国連本部ビル

国連本部ビルでは、中国の原則から中華民国旅券は身分証明書として認められていません。

利用の制約

中華民国旅券は、国家承認の有無に関わらず多くの国で利用できますが、一部の国では別紙に査証が発行されたり、査証免除での渡航が制限されたりします。また、華僑の旅券は、中華民国国民身分証の統一番号を持たないため、一部国家への査証免除での渡航ができません。

その他

中華民国政府は、台湾籍と大陸籍の二重国籍を認めていません。中華人民共和国旅券を取得した場合、中華民国旅券は無効となり、台湾籍を喪失します。しかし、国内法上は中華民国の国民として扱われます。

中華民国旅券は、台湾のアイデンティティを象徴する重要な文書であり、その歴史的背景と利用における規定は、国際関係における台湾の複雑な立場を反映しています。

参考情報:
拓殖大学海外事情研究所華僑研究センター
台北駐日経済文化代表処
* 中華民国外交部領事事務局

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