中華民国期の通貨の歴史

中華民国期の通貨：激動の時代を映す金融史

1911年の辛亥革命後、中華民国は近代国家への道を歩み始めましたが、その道のりは険しく、北京政府の財政基盤は脆弱でした。統一的な通貨制度の構築は容易ではなく、何度も挫折を繰り返しました。第一次世界大戦後、列強の金本位制復帰により銀の国際価格が下落、中国には銀が流入し、穏やかなインフレが進行。上海を中心に経済が発展しましたが、この銀本位制は脆いものでした。

国民党と法幣：銀本位制からの脱却

1928年、中国国民党は北伐を完了し、南京に統一政権を樹立。経済再建を目指し、上海に中央銀行を設立、銀行券の発行を開始しました。しかし、1929年の世界恐慌は、中国の銀本位制に大きな打撃を与えました。銀価格の変動に翻弄される通貨制度は、経済の安定を阻む大きな要因となり、1934年には銀価格の高騰による上海経済の崩壊という事態にまで発展しました。

この状況を打開するため、1935年、国民党政府は宋子文主導のもと、大規模な幣制改革を実行。銀貨の流通を停止し、中央銀行などが発行する銀行券「法幣」を全国統一通貨と定めました。英米の支援を得て、法幣はイギリス・ポンドにリンクされ、その安定を図るため、回収された銀はアメリカに売却されました。この改革は中国経済の近代化に不可欠でしたが、一方で庶民はインフレ対策としての銀を失うことになりました。日本政府は満州国建国という事情から、この改革に協力せず、華北分離工作を進めました。

日中戦争と通貨の混迷：軍票、辺幣の登場

1937年、盧溝橋事件の勃発により日中戦争が全面化。日本軍の占領地域では、「法幣」を排除し、華北連合銀行券（のち中国聯合準備銀行券）、華興商業銀行券などが発行されました。さらに日本軍は軍票を発行、流通させました。しかし、これらの通貨は法幣に比べて信用力が低く、日本軍の支配地域以外ではほとんど通用しませんでした。汪兆銘政権も中央儲備銀行を設立し、儲備券を発行しましたが、これも乱発により価値が暴落しました。日本軍は軍票発行による物資の徴発を強行し、アヘン密売にも手を染め、経済的、政治的混乱を招きました。

一方、中国共産党は解放区で辺区銀行を設立し、辺幣を発行。日本軍支配地域から物資を調達し、国民党に抵抗しました。辺幣は日本軍の通貨を駆逐し、次第に共産党の影響力を示す指標となりました。日本軍による法幣偽造も、経済混乱に拍車をかけました。1938年、陸軍第九研究所（登戸研究所）では法幣の偽造が国家プロジェクトとして行われ、大量の偽札が中国に流出しました。これは、国民党の財政を圧迫し、国民の不満を増大させる結果となりました。

戦後：辺幣と法幣のせめぎ合い、そして人民元へ

1945年の日本の敗戦後も、共産党と国民党の間で通貨戦争が続きました。共産党支配地域では辺幣の統一が進められましたが、国共内戦の勃発により中断。1947年、共産党の勝利が確実になると、1948年12月、中国人民銀行が設立され、人民元が発行されました。国民党政府は金円券を導入しましたが、信用を失墜し、インフレは止まらず、最終的に人民元へと移行しました。台湾では新台幣が発行されました。こうして、激動の時代を経て、中国大陸の通貨は人民元へと統一されたのです。

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