宋子文

宋子文（そう しぶん）は、1894年1[[2月]]4日に生まれ、1971年4月25日に亡くなった中華民国の政治家であり、実業家です。彼は、元行政院長を務めた人物であり、宋家三姉妹として知られる宋靄齢、宋慶齢、宋美齢の実弟としても知られています。宋家三姉妹はそれぞれ、孔祥熙、孫文、蔣介石という中国の歴史において重要な人物と結婚しました。

生い立ちと教育

宋子文の父、宋嘉澍は海南島出身で、聖書の出版を通じて財を成した実業家でした。両親の意向により、宋子文は上海聖ヨハネ大学で学び、その後1912年にアメリカに留学しました。ハーバード大学で経済学を専攻し、1915年に経済学修士号を取得。その後、コロンビア大学に進学し、経済学博士号を取得しました。コロンビア大学在学中には、ニューヨークで銀行員としても勤務しました。

孫文の国民政府での活躍

1917年に帰国した宋子文は、漢冶萍公司の秘書や華義銀行の総経理を歴任しました。父の宋嘉澍が孫文の支持者であったこと、そして姉の宋慶齢が孫文と結婚していたことから、1923年に孫文によって広東に招かれました。広東の国民政府では、両広塩務稽核所経理や広州中央銀行行長として、財政改革を担当しました。孫文の死後は国民政府財政部長に就任し、広東省財政庁長も兼任し、政府の財政統一を進めました。この時期、国民政府の収入は1924年の約798万元から1927年には約1億876万元へと急増しました。国民党の北伐成功後は、国民政府委員や財政部長、中央銀行総裁といった要職を歴任し、南京国民政府の重鎮となりました。

南京国民政府時代

南京国民政府において、宋子文は主に財政と経済開発の分野で活躍しました。財政部長としては、1930年と1933年の関税協定改定を推進しました。当時の中国は関税自主権がなく、輸入品に対して低い関税率しかかけられませんでしたが、列強との交渉の結果、一部の関税率引き上げに成功しました。また、塩税の統一や釐金廃止に尽力し、国民政府の財政強化を図りました。上海には中央銀行を設立し、自ら総裁に就任しました。幣制統一政策としての廃両改元は、宋子文が財政部長を辞任したため、後任の孔祥熙に引き継がれました。

1931年9月18日に柳条湖事件が発生した際、行政院副院長であった宋子文は、翌日には駐華公使の重光葵と会談し、日中直接交渉の方針で合意しました。宋子文の政策の根底には、対英米協調があり、対日強硬姿勢であったとされています。しかし、1933年に国民政府が対日妥協政策に転換する中で、宋子文は財政部長を辞任しました。親日派が政府内で勢力を増す中、欧米との借款交渉で成果を上げられず、政府内で支持を失ったことが背景にあります。

財政部長辞任後も、宋子文は全国経済委員会で実権を握り、国内の交通や農業開発を進めました。しかしこの時期には、中国の産業における官僚資本の占める割合が増大したとも指摘されています。その他にも、中国建設銀公司や中国銀行を設立し、中国経済界への影響力を強めました。

1937年に日中戦争が勃発すると、宋子文は対中支援を訴えるためアメリカに渡り、アメリカからの支援を取り付ける役割を果たしました。その結果、太平洋戦争開戦前には数回にわたる資金援助のほか、1941年にはアメリカから空軍戦力（フライングタイガーズ）の提供を受けることに成功しました。日米開戦直後には外交部長となり、アメリカや連合国との交渉役を務め、終戦直前には行政院長に就任しました。

1945年7月にはモスクワで、ソ連のヨシフ・スターリンと中ソ友好同盟条約の締結交渉に当たりました。ヤルタ会談の密約に基づき、満洲の日本の権益委譲と外モンゴルの独立承認を求めるスターリンに対して、宋子文は外モンゴルの独立を認める代わりに、ソ連による中国共産党の不支持や、旅順・大連港、中東鉄道・南[[満洲鉄道]]の中ソ共同利用における中国側の管理権・所有権の確認を求めました。交渉はポツダム会談のために中断され、8月8日に再開されました。スターリンは多少の譲歩を示しましたが、ソ連側が満洲への軍事侵攻で優位な立場となっていたため、蔣介石の指示により8月14日に条約とそれに付随する諸協定が締結されました。

国共内戦期の失脚と晩年

日中戦争終結後、宋子文は中国各地に残された敵産接収を担当しましたが、権力者による略奪を防ぐことができず、宋子文を含む四大家族が管理する企業に資産が集中したとも言われています。戦後の国民政府が、日中戦争期の多額の出費や第二次国共内戦の混乱、自由貿易政策やハイパーインフレによる経済混乱といった問題を抱える中、宋子文は適切な政策を採らなかったとして批判されました。1947年2月には傅斯年が「この様な宋子文は去るべきだ」と弾劾し、3月に行政院長を辞任しました。

その後、1947年10月からは広東省政府主席となりましたが、経済混乱は収束せず、官僚資本を通じて暴利を貪ったとの批判もありました。1949年には、広東に人民解放軍が迫る中、香港へ逃れ、さらに6月にはアメリカのニューヨークに亡命しました。以降、台湾の中華民国政府側からの「復帰」要請にも応じず、1963年に一時的に台湾を訪問したのみでした。1971年、サンフランシスコ訪問中に客死しました。

また、宋子文、蔣介石、孔祥熙、陳果夫は、いわゆる四大家族として、国民政府期の中国の政治経済を牛耳っていたとされています。蔣介石は宋子文を「一生の間あなたと掛け合ったことはすべて損をする商売だった」と評価していますが、宋子文の返答は伝えられていません。

宋子文が描かれている作品

『宋家王朝 中国の富と権力を支配した一族の物語』ISBN 978-4-00-603196-1　スターリング・シーグレーブ著　田畑光永訳
宋子文の父である宋嘉樹の生い立ちから、辛亥革命以降の激動の時代における宋子文、宋靄齢、宋慶齢、宋美齢ら宋一族の興亡を描いています。
『小説集 カレンシー・レボリューション』ISBN 978-4-434-23263-3 大薗治夫著
若き宋子文の心の葛藤、暗殺未遂事件の謎、そして1935年の中国幣制改革を描いた小説集です。

参考文献

劉寿林ほか編『民国職官年表』中華書局、1995年
王松、蔣仕民、饒方虎『宋子文伝』武漢出版社、1992年
* 石島紀之「中国の対外関係と経済建設」野沢豊編『中国の幣制改革と国際関係』東京大学出版会、1981年

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