中野喜介

中野喜介：立川の経済を築いた異色の実業家

中野喜介（1906年7月5日 - 1972年1月23日）は、第二次世界大戦後の立川市において、経済界に大きな影響を与えた人物です。立川商工会議所の会頭や全日本商店街連合会の会長などを歴任し、実業家として名を馳せました。しかし、その経歴は一筋縄ではいかないものでした。

生い立ちと戦前

中野喜介は、表向きは立川市出身とされていましたが、実際には日本統治時代の朝鮮・忠清南道で孫應棟として生まれました。日本語と朝鮮語に堪能で、1925年に神田工手学校を卒業後、1931年には立川タクシーを設立したとされています。

昭和初期には、杉山応と名乗り、タクシー事業を営んでいましたが、1937年にガソリンの統制が始まるとタクシー業を廃業。その後、青梅の芸妓と結婚し、川辺応棟と名乗る時期もありました。

占領期における活躍

敗戦後、立川飛行場には多くの米軍将兵が駐屯するようになり、中野は第三国人という立場を活かし、いち早く米軍相手の事業に着手しました。警察関係者とも親密な関係を築き、その手腕を発揮しました。

混乱期の中、中野家と養子縁組した彼は、中野応棟、そして中野喜介として知られるようになります。立川駅北口の曙町にあった旧日本陸軍の将校宿舎を借り受け、キャバレー「立川パラダイス」を開業。数百名の女性を集め、米軍将校を相手に賑わいました。

「立川パラダイス」は短命に終わりましたが、その跡地には学校法人立川学園が設立され、義弟の中野藤吾を校長として「立川専門学校」が開設されました。この学校は後に立川短期大学となり、最終的には都に移管され、東京都立立川短期大学へと発展しました。

また、中野は地域の商店街組織化にも尽力し、1947年には立川市商店会連合会（現在の立川市商店街連合会）を結成。初代理事長に就任しました。

1950年には競輪場建設を計画しましたが、反対運動により中止。しかし、この構想は市に買い上げられ、翌1951年に市営立川競輪場として実現しました。

高度経済成長期

1953年に立川商工会議所が設立されると、中野は初代会頭に就任。しかし、1959年には鮎川金次郎の選挙違反事件に関与し、逮捕・有罪判決を受けました。

1960年には東京立川ロータリークラブを創設し、初代会長に。1962年には中武デパートを建設するなど、事業家としての手腕を発揮しました。

1963年には都議会議員選挙における選挙違反事件に巻き込まれましたが、同年には東京都商店会連合会の会長、さらには全国商店会連合会の会長にも就任しました。

1967年に渡米中に体調を崩し、帰国後は肝臓疾患に苦しむようになりましたが、同年には胸像が建立され、式典に出席しました。

1968年には全日本商店街連合会会長として、衆議院商工委員会に参考人として出席し、中小企業の振興や金融支援について意見を述べました。

1972年1月23日、中野喜介は肝硬変のため国立立川病院で死去。立川商工会議所と全日本商店街連合会の合同葬として葬儀が執り行われました。

人物評

ドイツ文学者の山下肇は、中野について「第三国人の汚名を抹殺し、立派に日本人になりすましたあたりは、たしかにただものではない」と評しています。

中野喜介は、その波瀾万丈な人生と、立川の経済発展に大きく貢献した功績から、今もなお語り継がれる人物です。

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