中黒 (意匠)
中黒（なかぐろ）とは
中黒（旧字体：中黑）は、幕末から明治時代初期にかけて、日本の政府が盛んに使用した意匠です。当時、日本を象徴する意匠として、日の丸と肩を並べるほど重要な存在でした。この意匠は、徳川氏の先祖とされる新田氏の家紋「新田一つ引」が基になっています。
幕府の象徴としての中黒
中黒は、江戸幕府の船舶や幕府海軍の艦船が旗（幟や細旗）、帆、船体に描いていました。特に、白地中黒の旗は大政奉還後の戊辰戦争終結まで使用されました。
開国と中黒の制定
日本の開国以前は、日本船は日本国籍を示す必要がなく、それぞれ独自の船印を掲げていました。しかし、1854年3月31日（嘉永7年3月3日）に日米和親条約が締結されると、外国船との区別が必要となり、幕府は1854年6月29日（安政元年6月5日）に日本船共通の旗と帆を定めました。
徳川斉昭の反対と変更
しかし、徳川斉昭は「日の丸こそが総船印にふさわしい」と主張し、源氏の家紋である中黒を総船印とすることに反対しました。その結果、同年9月3日（旧暦7月11日）に幕府の布令が改定され、中黒は「日本船共通の帆」から「幕府船専用の帆」へと変更されました。
この際、諸家が白帆を使用することも禁止され、日の丸が国旗として定着していきました。
海軍旗としての採用
1859年2月22日（安政6年1月20日）には、日本船の掲揚法がさらに改定され、中黒は幕府海軍艦船（公儀軍艦）専用の旗として使用されることになりました。
この際、諸家の艦船が完成し次第、その船印や帆印が公儀軍艦印に似ていないかを調査し、事前に幕府に届け出ることも定められました。
1863年9月18日（文久3年8月6日）には、「文久三亥年八月六日周防守下附」により、以下のように定められました。
明治時代以降の中黒
戊辰戦争では、旧幕府海軍が中黒の旗を襲用しました。戊辰戦争終結後、明治政府は日の丸を国旗として継承しましたが、中黒を政府旗や軍艦旗として制定することはありませんでした。しかし、その意匠を取り入れた旗を商船旗たる「日本商船記」として定めました。これは、縦6尺、横8尺（3:4）の白地中黒の中心に直径4尺の日章を配したもので、国旗と同様の取り扱いを受けるように規定されていました。
しかし、商船旗の自己調達の問題や、海運会社の社旗の掲揚、マスト数の少ない船舶での掲揚の困難さなどから、1875年に廃止されました。
中黒は、日本の近代化の過程で、幕府の象徴から商船旗へと姿を変えましたが、最終的には廃止されました。しかし、その意匠は日本の歴史に深く刻まれています。
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