丹波酒井氏

丹波酒井氏とは

丹波酒井氏は、平安時代末期から安土桃山時代にかけて丹波国多紀郡を本拠とした国人領主です。桓武天皇の皇子、葛原親王の後裔を称する酒井兵衛次郎政親が始祖とされています。しかし、近年では尾張の豪族、千竈氏の後裔とする説も出てきています。丹波でも有数の古参勢力であり、鎌倉時代から多紀郡丹南町一帯に勢力を及ぼしました。

酒井氏の出自と発展

承久の乱後、政親は多紀郡南西部の酒井荘に所領を与えられ、関東から移住し、平姓から酒井氏を名乗りました。その後、鎌倉御家人として近隣の悪党を討伐するなどして勢力を拡大し、酒井四家につながる庶子家が繁栄しました。

政親の次男政重は油井保の地頭職を世襲し、油井酒井氏の祖となりました。長男孝信は主殿保、犬甘保の地頭職を世襲し、その子孫から矢代酒井氏、栗栖野酒井氏が分かれました。さらに、矢代酒井氏からは初田酒井氏が分流しました。これらの四家が当時の有力な酒井一族でしたが、遺産をめぐって内紛も絶えませんでした。正慶年間には、三家が遺領相伝の訴訟を起こしましたが、後に和解し、それぞれ矢代氏、栗栖野氏、竹内氏を称し、酒井惣領家としての地位を築きました。ただし、後の酒井四家はこれとは異なります。時代が下るにつれて竹内氏の地位は低下し、代わりに矢代氏庶流の初田氏と油井保地頭の油井氏が加わり、酒井四家を構成しました。

鎌倉幕府倒幕の動きが見られるようになると、酒井氏は足利氏に加勢し、足利尊氏の篠村の旗揚げに参戦したことが『太平記』に記されています。

波多野氏との対立と衰退

15世紀後半には、応仁の乱で戦功を挙げた細川氏の被官、波多野清秀が多紀郡に入植し、丹波波多野氏を興しました。永正5年（1508年）には、波多野氏が八上城を拠点に酒井氏ら豪族の討伐を開始し、酒井氏は酒井合戦で敗北しました。その後、波多野氏の勢力拡大により、酒井氏は一時衰退しましたが、その傘下に入り重臣として起用される者もいました。

16世紀頃には、酒井氏は旧丹南町一帯に支城館を構え勢力を取り戻しつつあり、栗栖野城、油井城（尾ノ上城）などの城を築きました。また、一族の団結を図るため、高仙寺を共通の氏寺とし、酒井四家の大将らは寄進を行いました。さらに、八上城主波多野秀治と連携するなど、勢力維持に努めました。

しかし、1570年代頃から明智光秀による丹波攻めが始まると、酒井氏は波多野氏側として明智勢に対抗しました。天正7年（1579年）には、酒井氏の所領が明智方の支配下に入ったことが史料から確認でき、この頃までに酒井氏の諸城は落城し、没落したと考えられます。

酒井氏のその後

一族の多くは多紀郡に残り、武士を捨て農民となる者や、藩に仕官する者もいました。油井酒井氏の酒井上野介氏盛の子孫には、小田原藩家老の酒井半六がいます。半六は、戦で亡くなった先祖を敬い、油井城に石灯を寄贈しました。

酒井氏の主な人物

酒井政親：丹波酒井氏の祖。承久の乱後、地頭職を得て丹波国に下向。
酒井信政：栗栖野酒井氏の当主。栗栖野城主。
酒井氏治：矢代酒井氏の当主。矢代城主。大山合戦で討死。
酒井氏盛：油井酒井氏の当主。油井城（尾ノ上城）城主。
酒井氏武：初田酒井氏の当主。大沢城主。明智光秀に降伏後、本能寺の変で討死。

酒井氏の家臣団

酒井氏は、酒井四家を中心に武士団を編成し、織田氏の丹波平定に抵抗しました。

杉本氏：禄庄城主、佐幾山城主。初田酒井氏の家臣。
石井氏：禄庄城主、佐幾山城主。初田酒井氏の家臣。
上山氏：上山肥後守が知られる。油井酒井氏家臣。
藤田氏：藤田孫五郎が知られる。油井酒井氏家臣。
国松氏：国松対馬が知られる。矢代城主で酒井主水介に仕えた。
平野氏：平野酒造之丞が知られる。味間南城主で初田酒井氏の傘下の豪族。
谷後氏：谷後和泉守が知られる。
安村氏：安村丞太夫正長が知られる。味間北城主。
本庄氏：栗栖野酒井党傘下の豪族。