久米村 (愛媛県温泉郡)

久米村（くめむら）

愛媛県の中予地方、現在の松山市の東部に位置していた久米村は、かつて久米郡および温泉郡に属した村です。現在の行政区域では、松山市の高井町、久米窪田町、来住町、鷹子町、南久米町、北久米町、福音寺町、そして南土居町の一部にあたる広がりを持っていました。伊予鉄道横河原線が村域を横断し、久米駅が開設されるなど、古くから交通の要衝として知られています。

歴史的変遷

久米村の歴史は、明治時代中期の地方行政再編に遡ります。1889年（明治22年）12月15日、町村制が施行されたことに伴い、それまで存在した高井村、窪田村、来住村、鷹子村、南久米村、北久米村、福音寺村、南土居村（一部）といった複数の村々が合併し、新たな自治体として久米郡久米村が発足しました。これは、近代的な村としての一歩を踏み出した瞬間でした。

交通網の整備は、村の発展に大きな影響を与えました。1893年（明治26年）5月7日には、村内に伊予鉄道久米駅が開業し、松山市街との結びつきが強化されました。また、郡の再編により、1897年（明治30年）4月1日には所属郡が久米郡から温泉郡に変更されています。

大正から昭和にかけても、村のインフラ整備が進みました。1906年（明治39年）3月23日には久米郵便局が開局し、村内の通信・物流網が整備されました。1920年（大正9年）には村役場と公会堂が新築されるなど、行政機能も拡充されています。交通面では、1914年（大正3年）に日尾八幡神社前から新立橋間の新道が開通し、さらに1931年（昭和6年）には日尾八幡神社前から小野川平井橋にかけても新たな道路が開かれるなど、地域内の交通利便性が向上しました。これは、近隣の村々との連携や、村域を越えた交流にも寄与しました。

太平洋戦争末期の1945年（昭和20年）3月頃には、村内に軍用滑走路の建設が計画され着工されましたが、終戦により建設は中止となりました。戦後、1951年（昭和26年）9月には久米公民館が開館し、住民の生涯学習や交流の拠点として活用されました。

久米村は、1955年（昭和30年）5月1日、周辺町村と共に松山市に編入され、その歴史に幕を下ろしました。自治体としての久米村は消滅しましたが、地域名は現在も松山市の地名として残されています。

編入後の動向

松山市への編入後、一時的に村の分離・再独立を求める動きも見られました。1956年（昭和31年）には、久米地区の住民を中心に松山市との合併解消と分村を求める署名運動が開始され、同年10月25日には松山市議会も久米地区の分離を承認しました。しかし、愛媛県はこの決定を認めず、分離は実現しませんでした。その後、地域内の課題であった分収金問題の調停が1958年（昭和33年）3月29日に成立したことにより、分離に向けた決議は白紙撤回され、久米地域は松山市の一部として定着していくこととなります。

地理と自然

久米村域には、川附川、堀越川、小障子川、小野川、悪社川、内川といった複数の河川が流れ、かつては豊かな農業を支える水源となっていました。これらの河川は、地域の景観形成にも寄与しています。

教育と交通

閉村時には、村立の久米小学校と久米中学校が置かれ、地域の子どもたちの教育を担っていました。交通については、前述の伊予鉄道横河原線 久米駅が地域住民の主要な公共交通機関であり、また讃岐街道といった主要な街道も村域を通っていました。

地域の名所と文化

久米地域には、歴史と文化を感じさせる名所旧跡が点在しています。四国霊場八十八ヶ所札所のうち、第四十八番札所の西林寺と第四十九番札所の浄土寺があり、多くの遍路が訪れる霊場として知られています。また、日尾八幡神社（東道後神社）や軍ヶ森神社といった神社も地域の信仰を集めています。

ゆかりのある人物

この地域からは、日尾八幡神社の神官であり、著名な書家としても知られる三輪田米山や、その弟で勤皇家であった三輪田元綱、さらには陸軍中将や衆議院議員を務めた仙波太郎など、歴史に名を残す人物を輩出しています。

かつては農村地帯であった久米村ですが、東道後温泉の開湯によって温泉郷としての顔も持つようになり、近年は松山市近郊のベッドタウンとして宅地開発が進み、大きく姿を変えています。地域の歴史は、久米村誌や久米郷土誌といった文献に詳しく記録されており、その変遷を知る手がかりとなっています。

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