乙支文徳

乙支文徳について

乙支文徳（いつし ぶんとく、6世紀後半から7世紀初頭）は、高句麗の名将および大臣として知られ、朝鮮の歴史において最も重要な民族英雄の一人です。彼はその卓越した軍事的才能により、今なお高く評価され、救国の英雄として称えられています。彼の功績の中でも特に有名なものは、隋との戦争における戦勝です。

謎に包まれた出自

乙支文徳の出自については多くの議論があり、「高句麗人説」、「楽浪郡・帯方郡の遺民説」、「鮮卑族説」の三つの説があります。

1. 高句麗人説: 1794年に編纂された『海東名将伝』や、李氏朝鮮時代の『新増東国輿地勝覧』では彼が平壌出身であるとの記録がありますが、これらは後の記録に基づいており、信憑性に欠けるといわれています。

2. 楽浪郡・帯方郡の遺民説: 彼の文学的才能から中国に存在した楽浪郡や帯方郡の遺民出身ではないかという意見もある。楽浪郡は314年頃に高句麗によって滅ぼされ、その後の勢力が高句麗へ帰属したという説です。

3. 鮮卑族説: 1979年には甲元龍が乙支は鮮卑族の出自であるとする論文を発表し、大きな反響を呼びました。この説では彼の姓「乙支」が鮮卑族貴族の姓「尉遅（ウルチ）」に似ていることが根拠となっています。

隋との戦い

乙支文徳が特に有名なのは、隋の第二次高句麗遠征（612年）における薩水大捷です。隋軍の大軍が高句麗に襲いかかる中、乙支は偽りの降伏を申し入れ、隋軍にのりこめました。その後、彼は自軍に戻り、隋軍を撃退するために連携を図ります。

隋軍は数回の戦闘で疲弊し、兵糧不足に悩まされていたところ、乙支は隋の将軍于仲文に詩を送ります。この詩で彼は降伏を示唆しながら、戦の停止を提案しました。油断した隋軍を狙った彼の軍は、突然の襲撃をしかけ、隋軍に大打撃を与えることとなりました。結果、隋軍の30万のうち再び戻れた者はわずか2700人に過ぎませんでした。この戦いは『三国史記』において記念するべき大勝利とされ、「薩水大捷」として今も語り継がれています。

文献と評価

乙支文徳についての情報は主に『三国史記』に残されています。この記録では彼の功績が称えられ、高句麗の存続における重要な役割を果たしたことが強調されています。現代の韓国では、彼の名は数々の教科書に登場し、外敵から国を守った英雄としての地位が強調されています。米韓合同軍事演習の名称にも彼の名が冠されることから、彼の存在が今日までどれほど影響を与えているかがわかります。

乙支文徳は歴史上の重要人物であり、彼の業績と生涯は現代においても考察され続けています。何世紀も前の彼の戦略や思想は、今の世代にも影響を与え、韓国の歴史の一部として語り継がれているのです。

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