乙毘沙鉢羅葉護可汗

乙毘沙鉢羅葉護可汗（Irbis ïšbara yabγu qaγan）

乙毘沙鉢羅葉護可汗は、7世紀に西突厥を統治した人物であり、その生涯は、当時の西突厥の複雑な政治情勢を反映しています。彼の出自、即位の経緯、そして短い治世における出来事を以下に詳述します。

生い立ちと即位

乙毘沙鉢羅葉護可汗は、沙鉢羅咥利失可汗の弟である伽那設の子として生まれました。彼の可汗号である「乙毘沙鉢羅葉護」は、称号であり、個人名は記録に残っていません。また、薄布特勤という官名を持っていました。

貞観13年（639年）、沙鉢羅咥利失可汗の配下であった吐屯俟利発が乙毘咄陸可汗と密通して反乱を起こしました。これにより、沙鉢羅咥利失可汗は抜汗那国へ逃れましたが、そこで亡くなりました。その後、国人たちは沙鉢羅咥利失可汗の子を立てて乙屈利失乙毘可汗としましたが、彼は貞観14年（640年）に死去しました。この混乱の中、弩失畢部の酋帥たちは伽那設の子である薄布特勤を迎え入れ、乙毘沙鉢羅葉護可汗として擁立しました。

治世

乙毘沙鉢羅葉護可汗は、碎葉水（スイアブ川）の北に可汗庭（首都）を建設し、そこを南庭としました。彼の勢力範囲は、東は伊麗河（イリ川）を境界とし、亀茲国、鄯善国、且末国、吐火羅国、焉耆国、石国、史国、何国、穆国、康国など、広範囲に及んでいました。彼は積極的に唐へ遣使を送り、朝貢を行いました。これに対し、唐の太宗は璽書を下して彼を慰労しました。

貞観15年（641年）、太宗は左領軍将軍の張大師に命じて乙毘沙鉢羅葉護可汗に鼓纛を贈りました。しかし、この頃の西突厥は、乙毘沙鉢羅葉護可汗と乙毘咄陸可汗が頻繁に争っており、政治情勢は不安定でした。太宗は乙毘咄陸可汗が唐の宮闕に詣でて来た際に、和睦を説得しましたが、乙毘咄陸可汗の勢力は次第に強大となり、西域諸国は再び彼に帰服するようになりました。

悲劇的な最期

乙毘咄陸可汗は石国に吐屯を派遣し、乙毘沙鉢羅葉護可汗を攻撃させました。乙毘沙鉢羅葉護可汗は捕らえられ、乙毘咄陸可汗のもとへ送られ、そこで殺害されました。これにより、彼の短い治世は終わりを迎えました。

乙毘沙鉢羅葉護可汗の生涯は、当時の西突厥が抱えていた内紛と、唐との関係の中で翻弄される姿を象徴しています。彼の治世は短く、悲劇的な結末を迎えましたが、その存在は西突厥の歴史において重要な位置を占めています。

参考文献

『旧唐書』（列伝第百四十四下 突厥下）
『新唐書』（列伝百四十下 西突厥）
佐口透・山田信夫・護雅夫訳注『騎馬民族誌２正史北狄伝』（1972年、平凡社）
内藤みどり『西突厥史の研究』（1988年、早稲田大学出版部、ISBN 4657882155）

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