奉幣

奉幣（ほうへい）とは

奉幣とは、神道において神に幣帛（へいはく）を捧げる儀式のことです。古くから日本の祭祀において重要な役割を果たしてきました。

歴史

古代・中世

延喜式神名帳に記載された神社には、神祇官や国司から幣帛が捧げられました。特に重要な神社には、天皇の使いである勅使が派遣され奉幣を行いました。この勅使は奉幣使と呼ばれ、選ばれた者がその任にあたりました。伊勢神宮には王氏（白川家）、宇佐神宮には和気氏、春日大社には藤原氏といった特定の氏族が奉幣使を務めることが決まっていました。

中世以降、伊勢神宮の神嘗祭に対する奉幣は特に例幣と呼ばれ、遣わされる奉幣使は伊勢例幣使と呼ばれました。また、天皇の即位や大嘗祭など、重要な儀式の日程を伊勢神宮に報告するための臨時の奉幣を由奉幣と呼びました。

江戸時代

朝廷の衰退とともに奉幣は一時衰退しましたが、江戸時代に入り、幕府が朝廷の祭儀を重んじるようになったことで、二十二社の上七社への奉幣が復興されました。

日光例幣使

正保3年（1646年）からは、日光東照宮の例祭に派遣される日光例幣使の制度が始まりました。江戸時代には、単に例幣使と言えば日光例幣使を指すことが一般的でした。

日光例幣使は、朝廷と幕府の間を取り持つ権威ある存在であり、その行列は大規模でした。しかし、その接待は幕府や宿場町にとって大きな負担となっていました。例幣使は、道中の人々に御供米を分け与えたり、宿屋で短冊などを下賜することで金銭を得ていました。経済的に困窮した公家にとって、例幣使の役割は重要な収入源となっていたのです。

しかし、時代が下るにつれて、例幣使の随員が権威を笠に着て横柄に振る舞うようになり、宿場町側から「入魂金」として金銭を渡して抑止する慣例も生まれました。中には、駕籠を揺らして金品を要求する者もいたとされ、これが「ゆする」の語源になったという説もあります。

明治時代以降

明治時代に入ると、皇室祭祀令によって奉幣に関する規定が定められ、奉幣使は幣帛供進使と名称を改めました。戦後も、伊勢神宮などの勅祭社や山陵の式年祭で奉幣が行われています。

現代における奉幣

現在では、神社本庁から傘下の神社への幣帛の使いは献幣使と呼ばれています。奉幣は、日本の伝統文化として、今もなお重要な役割を果たしています。

参考文献

深井甚三『江戸の旅人たち』吉川弘文館、1997年

関連項目

幕末百話 - 日光例幣使の回顧談が収録されています

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