藤原為房

藤原為房（ふじわら の ためふさ）

藤原為房は、平安時代後期の公卿であり、藤原北家勧修寺流の祖として知られています。父は但馬守・藤原隆方で、官位は正三位・参議にまで昇りました。また、坊城大蔵卿、勧修寺とも号しました。為房は博学で実務能力に優れており、その才能は後世の勧修寺流一門の繁栄を築く礎となりました。大江匡房、藤原伊房と共に「前の三房」と称されるほどの人物でした。

生涯

為房は、延久3年（1071年）に後三条天皇の六位蔵人に任じられ、官僚としてのキャリアをスタートさせました。翌年には後三条天皇が白河天皇に譲位し、院庁が開かれると、為房は院判官代に任ぜられ、院政を支える重要な役割を担いました。その後、従五位下に叙爵し、遠江守、中宮少/大進などを経て、永保3年（1083年）には左衛門権佐、翌年には五位蔵人、応徳3年（1086年）には権左少弁と、次々に要職を歴任しました。三事兼帯の栄誉にも浴し、その傍らで摂関家の家司も務めました。

しかし、寛治6年（1092年）には、為房の下人が日吉神社の神人を殺害したとして延暦寺の衆徒から訴えられ、阿波権守に左遷されるという不運に見舞われます。しかし、翌年には赦免され帰京し、嘉保元年（1094年）には弁官時代の功績により従四位下・修理権大夫に叙任され、完全に復権を果たしました。

白河院の近臣としての信頼も厚く、嘉保2年（1095年）に従四位上、嘉保3年（1096年）に正四位下、嘉承2年（1107年）には正四位上・蔵人頭と順調に昇進し、天永2年（1111年）には参議に任ぜられ、勧修寺流としては高祖父・藤原為輔以来125年ぶりの公卿となりました。このことは当時、驚きを持って迎えられ、「一家の繁盛、千載の勝事」、「凡人といへども、子孫繁盛の者」と評されました。

その後も、永久2年（1114年）には院別当賞として正三位にまで昇りつめますが、永久3年（1115年）に腫物が原因で67歳でこの世を去りました。

為房の異例の昇進には、自身の能力に加え、妹の藤原光子（藤原公実の室で堀河・鳥羽両天皇の乳母）の存在も大きく影響したと言われています。次男の藤原顕隆は「夜の関白」と異名を取り、その子孫は蔵人や弁官から参議、中納言へと昇進する家系として定着しました。

政治への関与

永久元年（1113年）に発生した2つの事件では、為房の発言が朝廷の決定に大きな影響を与えました。永久の変では、鳥羽天皇暗殺未遂事件の犯人とされた仁覚の係累について、為房は縁者に罪を問う必要はないと主張し、公卿一同の賛同を得て、仁覚の父である左大臣源俊房を含む縁者は不問に付されました。

また、興福寺と延暦寺の衆徒が朝廷に対して強訴を繰り返した際には、延暦寺の衆徒が日吉神社の御輿を奉じて上洛し、興福寺の僧侶が以前に祇園社神人に暴行を加えたとして、興福寺の権少僧都・実覚の流罪を要求しました。この時、白河法皇が公卿を招集し対策を協議しましたが、藤原氏の氏寺である興福寺の仏罰と、目前に迫る延暦寺の衆徒の両方を恐れて、公卿たちは発言をためらいました。しかし、為房の提言により、延暦寺の要求を受け入れることが決定し、朝廷は延暦寺に対して実覚の処罰と、今後興福寺の訴えがあっても延暦寺の僧綱を罰しないことを約束しました。

官歴

為房の官歴は以下の通りです。

康平8年（1065年）：縫殿権助
延久3年（1071年）：六位蔵人（後三条天皇）
延久4年（1072年）：左近衛将監、院判官代
延久5年（1073年）：従五位下
承保2年（1075年）：遠江守
承保4年（1077年）：中宮少進（中宮・藤原賢子）
承暦4年（1080年）：従五位上、正五位下
永保元年（1081年）：中宮権大進
永保3年（1083年）：左衛門権佐、兼防鴨河使
永保4年（1084年）：五位蔵人（白河天皇）、止大進
応徳3年（1086年）：権左少弁、五位蔵人（堀河天皇）
寛治2年（1088年）：周防介
寛治3年（1089年）：左少弁
寛治4年（1090年）：兼加賀守
寛治5年（1091年）：兼中宮大進（中宮・媞子内親王）
寛治6年（1092年）：止任、左遷阿波権守
寛治7年（1093年）：聴帰京
寛治8年（1094年）：従四位下
嘉保元年（1094年）：修理権大夫
嘉保2年（1095年）：従四位上
嘉保3年（1096年）：正四位下
長治元年（1104年）：兼春宮亮（春宮・宗仁親王）
長治2年（1105年）：兼尾張守
嘉承2年（1107年）：正四位上、止亮、蔵人頭、兼内蔵頭
天仁2年（1109年）：越前権守、辞内蔵頭
天永2年（1111年）：参議、大夫権守如元
天永3年（1112年）：兼大蔵卿
天永4年（1113年）：兼備中権守、従三位
永久2年（1114年）：正三位
永久3年（1115年）：出家、薨去

系譜

父：藤原隆方
母：平行親女
妻：源頼国女
長男：藤原為隆
次男：藤原顕隆
三男：藤原重隆
その他、男子・女子多数

参考文献

河野房雄「白河・鳥羽両院政下の内蔵頭」（『平安末期政治史研究』、東京堂出版、1979年）
所功「筆者為房の略伝」（『史聚』10号、1979年）
木本好信「藤原為房－その生涯と日記『大府記』－」（『平安朝官人と記録の研究』、おうふう、2000年）
槇道雄「夜の関白と院政」（『院近臣の研究』、続群書類従完成会、2001年）
『公卿補任 第一篇』吉川弘文館、1982年
* 『尊卑分脈 第二篇』吉川弘文館、1987年

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