乞食の少年

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ作『乞食の少年』

『乞食の少年』は、スペインのバロック絵画の巨匠バルトロメ・エステバン・ムリーリョが1645年から1650年頃に描いた油彩作品です。この作品は、虱を取る少年の姿から『虱を取る少年』としても知られています。ムリーリョは子供の描写において卓越した才能を発揮しましたが、本作は彼が街頭の子供を描いた初期の作品の一つです。

背景

17世紀のスペインは、貧困が社会問題となっていました。ムリーリョは、そうした社会状況を背景に、貧しい子供たちの姿を描きました。彼は宗教画家として知られていますが、貧困に対する関心は、フランシスコ会の慈善の教義に影響を受けていると考えられています。実際に、ムリーリョはフランシスコ会のために多くの作品を制作しています。

作品

主題

『乞食の少年』は、当時のセビーリャの街頭に蔓延していた惨状を反映しています。政策の失敗により、多くの子供たちが孤児となり、自活を強いられていました。この作品に描かれている少年は、虱を取るという行為を通して、自身の境遇と向き合っています。少年の身なりはボロボロで、周囲には貧しい生活を示す物が散らばっています。それらの描写は、ムリーリョの観察眼と表現力を示しています。また、この作品は慈善の寓意として解釈することもできます。貧困層への共感は、当時のスペインの修道士、知識人、芸術家にとって重要なテーマでした。

様式

ムリーリョの初期の作品は、師であるホルヘ・カスティーリョや、フランシスコ・デ・スルバラン、アロンソ・カーノらの影響を受けていましたが、『乞食の少年』では、カラヴァッジョのスタイルに類似した光と影のコントラストが用いられています。しかし、ムリーリョは、カラヴァッジョのような超自然的な光ではなく、アンダルシア地方の陽光とその影を表現しています。また、本作はムリーリョの自由で厚みのある筆致も特徴的で、少年の足の裏など細部まで緻密に描かれています。この様式は、後のジョシュア・レノルズ、ジョン・コンスタブル、エドゥアール・マネなどの画家に影響を与えました。

解釈

地面にあるエビの食べ残しやリンゴの籠から、少年は食後に休んでいると解釈できます。虱を取る行為は、自身の心身を制御下に置く試みと捉えられます。また、この作品は、少年の貧しい境遇にも関わらず、彼がそれに影響されていない点を強調しています。この点は、ミゲル・デ・セルバンテスの小説『ドン・キホーテ』に登場するロシナンテという馬と比較されることがあります。ロシナンテは、過重な労働と不遇な扱いを受けているにもかかわらず、その任務を遂行しようとする点で、この少年と共通しています。

評価

ムリーリョの宗教画とは異なり、『乞食の少年』は発表当初から高い評価を得たわけではありませんでした。ムリーリョは、貧困の現実を理想化しすぎていると批判されることもありました。しかし、後世の評価では、少年の貧困に屈しない姿勢が魅力として捉えられ、評価が高まりました。ロココ時代には、この作品や類似のテーマの作品がより高く評価されるようになりました。

来歴

ムリーリョの街頭の子供を描いた作品は、バロック時代の終わりに人気となり、ヨーロッパ各地の収集家に購入されました。『乞食の少年』は、画商ルブランによって購入され、その後ルイ15世の王室コレクションに加わりました。これは、フランスの王室コレクションに収蔵された数少ないスペイン絵画の一つであり、ムリーリョの作品が国際的に認められた証でもあります。現在、この作品はパリのルーヴル美術館に所蔵されています。

関連作品

ムリーリョは、子供をテーマにした多くの作品を描いています。それらは、貧困層の子供たちの姿を生き生きと捉え、当時の社会状況を反映しています。これらの作品を通して、ムリーリョは子供に対する深い愛情と、社会に対する強い関心を示しています。

ムリーリョは、その生涯を通して、貧困に苦しむ人々に寄り添い、彼らの姿を絵画として描き続けました。彼の作品は、今日の私たちにも、人間の尊厳と社会正義について深く考えさせてくれます。

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