乞食大将

乞食大将

『乞食大将』は、近代日本文学を代表する作家、大佛次郎（おさらぎ じろう）が著した長編の歴史小説です。物語の中心には、戦国時代から江戸時代初期にかけて活躍した武将、後藤又兵衛（ごとう またべえ）が据えられています。

小説の発表と出版の経緯

この小説の連載は、第二次世界大戦のさなかにあたる1944年10月25日に、新聞『朝日新聞』で開始されました。しかし、戦局の悪化に伴う物資不足、特に用紙の供給難の影響を受け、1945年3月6日をもってやむなく中断されます。物語は未完のまま、戦後を迎えることとなりました。

終戦後、作品の完結が望まれ、異なる雑誌媒体で連載が再開されます。まず、1945年12月発行の雑誌『新太陽』に掲載され、続いて翌1946年の『モダン日本』1月・2月合併号および3月号に掲載されたことで、ようやく物語は完結に至りました。このように、戦中から戦後にかけて複数の媒体を経由して完結した作品として知られています。

完結後、1947年には苦楽社から単行本として初めて刊行されました。時を経て、1987年には徳間書店から文庫版が刊行される際に、『乞食大将 後藤又兵衛』と改題されています。

多様なメディア展開

『乞食大将』は小説としてだけでなく、映像作品としても広く知られています。大映株式会社により二度にわたり映画化され、また一度テレビドラマ化もされています。

映画版 (1952年)

一度目の映画化作品は、1952年に公開されました。この作品には特別な背景があります。実は1945年に製作は完了していたものの、当時の連合国軍最高司令官総司令部（GHQ）による占領政策の影響を受けて上映が差し止められ、製作から7年後の1952年にようやく日の目を見ることになったのです。この作品は、出演者の一人であった藤野秀夫の遺作ともなりました。

主なスタッフは以下の通りです。

監督: 松田定次
脚本: 八尋不二
音楽: 白木義信

主要なキャストとしては、後藤又兵衛を市川右太衛門が演じ、徳川家康役には藤野秀夫、黒田甲斐守長政役には月形龍之介らが配されました。

映画版 (1964年)

二度目の映画化作品は、1964年11月28日に公開されました。この作品は、当時人気を博していた勝新太郎と、その兄である若山富三郎（公開当時の芸名は城健三郎）が兄弟として共演したことでも話題となりました。また、若き日の田村正和も出演しています。

主なスタッフは以下の通りです。

監督: 田中徳三
脚本: 八尋不二
音楽: 伊福部昭
* 美術: 内藤昭

主要なキャストとして、主人公の後藤又兵衛を勝新太郎が演じ、黒田長政役に藤巻潤、宇都宮鎮房役に若山富三郎、花若役に田村正和らが名を連ねています。

テレビドラマ版

小説は一度、テレビドラマとしても映像化されています。日本テレビ系列で、1959年11月20日から1960年1月29日にかけて放送されました。全11回のシリーズでした。

ドラマの脚色は西川清之が担当しました。

主な出演者には、富田浩太郎、高峰竜三、佐々木孝丸らがいます。

このように、大佛次郎の歴史小説『乞食大将』は、戦時下という困難な状況を乗り越えて完結に至り、その後も映画やテレビドラマといった異なるメディアで多くの人々に親しまれ続けている作品です。

もう一度検索