コケモモ

コケモモ（苔桃、学名: Vaccinium vitis-idaea）は、ツツジ科スノキ属に分類される常緑性の小低木です。栽培されることは少なく、一般的には野生のものが利用されます。主に北半球の寒帯地域に分布し、日本では北海道から九州にかけての亜高山帯に自生しています。

分布と生育環境

コケモモは、ユーラシア北部や北アメリカの周北林のような寒冷な環境を好みます。日本では、亜高山から高山の針葉樹林の下や岩礫地などで見られます。森林内に生育するため、日陰で湿度が高く、酸性の土壌を好む傾向があります。ツツジ科の植物と同様に、栄養分の少ない土地でも生育可能ですが、アルカリ性の土壌では生育できません。また、耐寒性に優れ、-40℃以下の低温にも耐えますが、夏の暑さには弱い性質を持っています。

特徴

コケモモは、樹高が10cmから20cm程度の小さな低木です。茎は地面を這うように伸び、よく分枝します。葉は長さ1cmから3cmの長楕円形または倒卵形で、光沢のある革のような質感で、裏面は淡い緑色をしています。常緑樹であるため、冬でも葉を落とすことはありません。地下茎を伸ばして株を広げていきます。

花期は初夏の6月から7月頃で、枝の先に総状花序を形成し、淡い紅色を帯びた白色の釣鐘状の花を咲かせます。花冠は浅く4つに裂け、反り返るのが特徴です。果実は8月から10月頃に赤く熟し、直径7mmほどの球形をしています。

コケモモは、クランベリー（ツルコケモモ）と混同されることがありますが、花の色や形が異なります。コケモモの花は白く、花冠が雄しべと雌しべを部分的に囲むのに対し、クランベリーの花はピンク色で、花冠が後ろに反り返ります。また、果実の形状も異なり、コケモモは球形ですが、クランベリーはやや洋ナシ型をしています。スノキ属には、ブルーベリーやビルベリー、ハックルベリーなど、他にも果樹として利用される植物があります。

コケモモは、英語でリンゴンベリー、フィンランドではプオルッカと呼ばれています。

亜種

コケモモには、以下の2つの亜種が知られています。

Vaccinium vitis-idaea var. vitis-idaea L.：ユーラシアに生育し、英名はCowberry（カウベリー）と呼ばれます。葉の長さは10mmから25mm程度です。
Vaccinium vitis-idaea var. minus Lodd.：北アメリカに生育し、英名はLingonberry（リンゴンベリー）と呼ばれます。葉の長さは7mmから20mm程度です。

利用

赤く熟した果実は、生食できるだけでなく、ジャムや果実酒などの加工食品にも利用されます。アイヌ語では「フレップ」と呼ばれ、樺太アイヌは「エノノカ」と呼んでいました。特に北欧では、野生のコケモモを公有地から自由に収穫することができ、日常生活に欠かせない食材となっています。果実は甘みと酸味のバランスが良く、ジャムやコンポート、ジュース、シロップ、ゼリー、アイスクリームの材料など、幅広い用途で利用されています。長期保存には砂糖漬けが適しており、肉料理の付け合わせとしても使われます。

コケモモには、有機酸、ビタミンC、βカロテン、ビタミンB群、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどが含まれています。葉には、アルブチンやメチルアルブチンなどの化学物質が含まれており、色素沈着の予防や、紫外線によるシミ・ソバカスの改善に効果があるとされています。日本ではウワウルシの代用として薬草として利用されることもあります。

コケモモは、その可憐な姿と多様な利用価値から、人々に愛されてきた植物です。

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